V=4/3πr³

詩と物語を紡ぎます

むきつゆ

2020-09-19 23:00:00 | daily tsukasa
 我が魔窟から徒歩五分のところに浄土宗のお寺と観音堂があり、その傍らにはお寺の掲示板が立っている。
 以前は標語みたいなモノとか、お寺の行事案内とか、貼り出されていた気がするのだけれど、今はただ一枚のポスターが貼ってあるだけ。つかさの記憶が正しければもう二年ほども経つような。


yukari:つかささん、むきつゆ】て、なんですか?
tsukasa:?【むきつゆ】
yukari:ほら、【むきつゆ】、て。



tsukasa:……ええと、【生きる力】、ではないですかね?
yukari:えー? 【むきつゆ】て、ひびき、の、ほうが、かわいいのに。
tsukasa:ふむふむ、【生きる力】だと確かに、ちと構えた、ごつごつ感がありますね。
yukari:それに、ゆかり、より、じがへた、ぢゃないですかー。
tsukasa:行書風の文字表記、ですからね、上手下手の基準も変わってきます。
yukari:つかささん、まんねんひつ、かしてください!

 *yukari、心を開いてtsukasaの万年筆を二本の棘で持つ。そして何枚もの紙に【むきつゆ】と書き続ける。その百回目。

yukari:……む……き…………つ……ゆ……!



yukari:こんしんの、【むきつゆ】、です。
tsukasa:ゆかりちゃん、とうとう、やりましたね。
yukari:……はい。

 *見つめ合う、tsukasaとyukari。その視線がtsukasaのエコバッグに注がれる。

tsukasa:……ミスター・オウルに頼まれてた……
yukari:……まつちや・あいす……
tsukasa:……ちゃぷちゃぷ、音がしてるんですけど。
yukari:あ、……あみださんに、よばれてる……、ゆかり、てんそー!

 *Johdoへ逃げたyukari。独り取り残され、頭上にオウルの羽ばたく音を感じて戦慄するtsukasa……。




written 2020/09/19
photographed 2020/09/19