動けないつかささん
(つかさ、前屈みの不自然な姿勢で立ち尽くしている。その顔には苦悩の色が深く脂汗が滲んでいる)
yukari:つかささーん!
tsukasa:………………。
yukari:?、つかささーん!
tsukasa:……ゆ、……ゆ、……。
yukari:?、どうした、ですか? その、くのう、を、きざまれた、ひようじようは。
(つかさ、何か言おうとしているが、言葉にならない)
yukari:し、が、かけない、ですか?
tsukasa:……詩も、……詩、も……。
yukari:?しも、しも?、……でんわ、かけたい、ですか?
(つかさの顎から脂汗が滴り落ちる)
yukari:……まあ、こうじゆんど、の、あぶら、が、あふれ、したたつてる。えねるぎーもんだい、かいけつ、ですねえ。
owl︰おや、これは? つかささん、まだ買い物には行かれてないので?
yukari:なん、ですと?
owl:あ、いや、かれこれ一時間ほど前に、買い物に行かれるとかおっしゃっていたかと。
yukari:あつ💡
(さぼてんゆかり、突然閃く!)
yukari:これは、さぼてんと、したことが……!
(ゆかり、全身の棘を逆立てる。棘と棘の間を凄まじい勢いで激しく飛び交う電波と素粒子、量子。周波数4096GIGAHzが開く)
yukari:つかささん!
【つかさ】
【守護霊さぼてんゆかり】
【フクロウ執事オウル】
【の】
【天使チャネリング】
【4096GIGAHz】
yukari:つかささん いつたいなにが あつたのか このちやねりんぐで おしえてたも
tsukasa:ミシッという 嫌な音して 激痛が 腰を駆け抜け 動くに動けず 嗚呼わたしの身体は stop motion
yukari:いたむのは こしの どのあたり
tsukasa:背骨の辺りがきりきりり 腰全体が あいててて
yukari:しばらく おて
yukari:おて❌ まて⭕
owl:もしかして、これは、人間がよく患う『ぎっくり腰』なのでは?
yukari:これは、なんともはや……。
owl:半妖の肉体にはふつう起こらないとされております。
(ゆかり、棘から火花を飛ばしながら思考・計算を何度も繰り返す)
yukari:はんよー、には、『つぼ』はないのですよね。
owl:そうです。当然の事ながら、つかささんにも『ツボ』は存在いたしません。
yukari:では『ひこー』をついてみましよう。
owl:は?『秘孔』ですか?それは余りに危険かと。秘孔は位置が混み合っている上に刺激の加減が難しい。下手すると、生命に関わりますぞ。
yukari:きけんは、がつてんしようちのすけ、やつてみなきや、わかりません。みすたーおうる、ひこーいがい、なにか、いいては、ありますか?
owl:……いいえ、ありません。
yukari:ゆかりが、ひこーを、つきます。ぎつくりごし、に、きく、ひこー、は、……
owl:義栗快復孔、ですね。
yukari:つかささん これからひこー つきますよ ちといたいかも がまんしてたも
tsukasa:お手柔らかに
(ゆかり、棘で義栗快復孔を突く)
yukari:あーたたたたたたた!
tsukasa:いーててててててて!
(つかさ、その場にがっくりと膝を付き、くず折れる)
yukari:つかささん!
owl:つかささん!
(つかさ、ぴくりとも動かない。ゆかりの後ろからあみださんがひょっこり顔を出す)
amida:♬マイファニーバレンタイン
yukari:うわつ、あみださん! びつくりしたな、もう。
amida:よお、ゆかりちゃん、ひさしぶりやな。
yukari:なにしに、きたですか?
amida:うん?ご挨拶やなあ。近所にお迎えがあったんでな、そのついでにちょっと寄ってみたんや。つかさ、死んどるんやないか?息してないで。
yukari:いいえ、しんでません。
amida:そうか?秘孔は侮れん。義栗快復孔のすぐとなりの秘孔な、保栗安楽孔いうねん。一発でぽっくり逝っちゃうねんけど、間違えなかったか?
yukari:それは……。
amida:つかさ、な。わしはすっきゃ。たまさか半妖に生まれついたが故に、普通の人間と違う事に気付いてしまって。いつも独りぽっちで悩んで、悩んで。せっかく出来た仙人掌の友達にも先立たれて。
yukari:あみださん、やめてください、つかささんは、しんでなんかいない。
amida:Johdoが池の畔でつかさの様子、一緒に見てたやろ。毎日泣いて泣いて。死にたいって。
yukari:わすれません、しゆごれいめんきよをとつたのは、つかささんのそばに、ずつといるために……えぐつえぐつ。
amida:よしよし、ちゃんと、Johdoまで連れてったる。未来永劫、供養は絶やさへんから。
yukari:だいじよーぶです、しんでませんから。つかささんはしなないです。しぬはずないです。つかささんは、ゆかりといきると、やくそくしたです。だから、かつてにしなないです。ぜつたい、つかささんは、しなないのです!
(あみださん、倒れているつかさの腰を二度三度撫でる。何事もなかったかのように起き上がるつかさ。泣き出すゆかり)
amida:うんうん、あの秘孔は難しいんや。ゆかりちゃん、よう頑張った。最後の一撃だけがほんの0.5mmずれたんやな。泣かんでええ、泣かんでええ。チャレンジがなければ、前に進めへん。わしからつかさへの還暦祝いや。ほなまたなあ。
♬わしのーおちゃめなバレンタイン
(西の空に消えていくあみださん)
🎶わたしのおちやめなばれんたいん……
朝早くからゆかりちゃんが歌っている。フクロウ執事のオウルがバタバタと朝餉の用意をしている。
つかささん、あさですよ、おきてるですか? かお、あらうですよ。
つかささん、おはようございます。今朝の朝餉は、ご飯、浅蜊と和布と豆腐の具沢山味噌汁、梅干、です。それでは自然の恵みに感謝していただきましょう。
どうしたですか?つかささん、なにか、いいことでも?
何だかすごい夢をね、見ちゃったんですよ。
今日も、一人の半妖と一体の守護霊と一柱の精霊は街の片隅でひっそりと、でも面白可笑しく暮らしているのです。
……そんなわけで、つかさは腰痛に見舞われながらも、本日還暦を迎えました。
皆さん、ありがとうございます。
writenby 2022/07/18
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