とかくに人の世は・・・

智に働いてみたり情に棹さしてみたりしながら
思いついたことや感じたことを徒然に記します 
  nob

こんな噺「まめだ」

2006年10月03日 | 寄席芸
 大部屋の役者市川右三郎が、三津寺(みってら)の向かいに「びっくり膏」という貝殻につめた膏薬を商う母親と二人で暮らしていた。
 ある雨の降る晩、右三郎が家に帰る途中で傘の上がズシッと重くなる。「何じゃいな?」すぼめてみたら何も無い。「おかしいなぁ?」差して歩きだすとまたズシッ……。見ると何も無い「ははぁ、マメダが悪さをしてるな」次にズシッと来たときにそのままトンボを切ると「ギャ~ッ」という声がして、黒い犬のようなものが走って逃げた。
 そのあくる日から店の膏薬の売り上げ勘定が合わなくなった。「売れた貝の数と銭とが一銭足らいで、代わりに銀杏の葉が一枚入ってんねん」と母親が訝る。そんなことがしばらく続いたが、ある日のこと勘定がピタッと合う。そのあくる朝、三津寺の境内で膏薬のはいった貝殻を身体中に貼り付けたマメダが死んでいた。
「あいつ、体が痛いもんやさかい、銀杏の葉を銭に変えてうちへ毎日膏薬買いに来てたんやな」「使い方がわからんかったんや。ちょっと聞いたら教えてやったのに。不憫なやつやな」と、右三郎親子と住職が境内に葬ってやることにした。
 三人がマメダの死骸を見ていると、秋風がサ~ッと吹いて来る。すると境内一面に散っていた銀杏の落ち葉がハラハラ、ハラハラハラハラとマメダの死骸へ集まって来た……。
  「お母(か)ん見てみ……、狸の仲間から、ぎょ~さん香典が届いたがな」



まことに洒落た「さげ」です。数ある上方落語のなかでも大好きな「さげ」のひとつです。この噺、古典落語のようにみえますが、昭和41年(30年代という話もあります)に三田純市さんがこしらえた新作落語です。♪雨がしょぼしょぼ降る晩に マメダが徳利持って酒買いに・・・という伝承歌をヒントに創られたと聞いています。

この噺、ストーリー性にも優れていますし、季節感もあります。また笑いと情のバランスがちょうど良い加減にできあがっていると思います。三田さんの笑いに対する感性が濃縮されてこの噺に詰められています。いままでに桂米朝さんはじめたくさんの噺家さんがこの噺を演じています。きっと「まめだ」という噺は上方落語の古典となって先々まで受け継がれていくでしょう。

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