設計事務所の裏窓

夫は建築士。設計事務所をやってます。
裏から眺めた感想、日々の独り言。
不定期便で頑張ります~!

ボランティア

2004年11月05日 11時19分33秒 | 独り言
毎日 平々凡々と生活していると 今の自分の状態が全ての世界だと錯覚しがちである。
本当は 様々な生活があって下を見てもキリがないが上を見てもキリがない。
どの生活が幸せで不幸なのか それは各個人の捉え方だが 常に いろいろな生活
いろいろな考え 多様な世界がこの世の中には存在しているという
柔軟な脳にしておかないと 専業主婦の自分は ますます狭い認識に
捕われそうで怖くなる。

子供の時から これといって劇的な人生を過ごしてこなかったものだから
初めて学生時代 柄にもなく一応ボランティアなんぞに参加した経験は
常に柔軟な自分でいたいと思った第一歩の出来事だったのかもしれない。

大体 自分本位で面倒くさがりの性格。おまけにボランティアなんて自己満足の
固まりだと生意気な考えを持っていたから 友人からのボランティアの誘いがあった時も
どうやって断ろうかと画策したほどだった。
「入院している子供と遊ぶだけ ボランティアなんてものじゃないから」
こう熱心に誘われても 実は超乗る気ではなかった。

渋々付いていった病院は 病院特有の薬品の匂いがプンプンしたし
真っ白い壁だらけだし そんな場所に入院している子供を想像しただけで
本当に嫌な性格だが ちょっと憂鬱になっている自分がいた。
でも そんな鬱々とした私だったが小児病棟にいたのは 底抜けに明るい子供達だった。

子供達とひたすら2時間遊ぶ。それが私に与えられた ボランティア。
トランプや お絵書き。単なるおしゃべり。こっちが どうしようと考える暇もなく
「次は これやって。次は こうして」
一人の学生の周りに あっという間に子供の輪が広がる。
いつしかそんな時間を過ごすのも苦痛でない自分がいるのに気がついた頃
結構冷静に小児病棟を見ると 入院している子供達には二つのパターンがある
事に気がついた。一つはケガや事故で入院している子供。一つは小さい頃からの
慢性の病で病院と家を行ったり来りしている子供。偏見の目で見ている訳ではないが
どの子供も明るいのだが 時折ふっと寂しげな表情を見せる子供は やはり
入退院ばかり繰返す子供達だった。昼間は こんなに無邪気に明るく振る舞っても
夜は寝れない 怖いと脅える子供が多いと言う話も 看護婦さんから聞いた。

そんな子供達の中で やはり小さい頃から入退院を繰返している女の子がいた。
彼女は引っ込み思案で大人しく いつも皆の周りからそっと覗いているタイプの
少女で 絵を描くのが大好きだった。そんな大人しい彼女だったが
一度だけ自分のそばにそっと寄ってきて 小さくこう呟いた事がある。
「お姉さんは お日さまの匂いがするよ」
彼女は生まれてから 病院で過ごす事が多かったのだろう。
普通の私達のように外に出て 思いっきり走ったり 太陽を身体に受けたり
そんな事も少ない これまでの人生だったのだろう。
普段 何気なく太陽の下を普通に歩いている私の全てを羨むかのように
目を閉じて 私の洋服の匂いを吸っている彼女を見ていると胸が詰まって
言葉にならなかった。

数ヶ月後 小児病棟から彼女の姿は消えていて 退院かなと看護婦さんに
聞いたら 看護婦さんは悲しく首を振るだけだった。
その日から ぷっつりとそのボランティアをやめてしまった。
どうしてやめてしまったか 理由はいろいろだったが 結局は 自分は弱い
という理由がピッタリだろうか。

ボランティアに行くなんて偉そうな事を言っていた あの頃だったが
結局は 様々な事を入院している子供達から得た気もする。

太陽の下で思いっきり遊んだ我が子の頭からぷーんと太陽の香りが漂う時 
今の自分の幸せと あの時 自分の服を静かに吸っていた少女を 
いつも思い出すのだ・・・・・・