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正露丸(せいろがん)

何年か前の作です。
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今から27年前、32歳の時、新婚の夫と共に、青年海外協力隊に参加した。
正確に言えば、海外に行きたくて、協力隊員と結婚したのだ。

しかし、派遣先のシリアが肌に合わなかったと見えて、一週間目でお腹を
下し始めた。手持ちの薬を呑んだり、町医者にかかって見たり、腹巻き、
ハーブティーと、いろいろ試してみたが、いっこうに効き目が無く、
とうとう、大使館主催の歓迎会にも欠席せざるを得なくなった。

ある日、ハマという町のホテルで、びっくり顔のボーイのあとから、栗野鳳
(クリノ オオトリ)駐シリア大使が入って来て「お腹には、これが一番です」
と、正露丸の小瓶を手渡して立ち去られた。窓から見送る私の目に、
日の丸を立てた黒塗りの高級車が見えた。

もちろん、私のお腹のぐあいはそれからもまったく改善せず、
ただ、ホテルのボーイの私たちに対する眼差しに、
著しく尊敬の度が加わっただけのことであった。

そのうちに、在外日本人のための巡回医師団が首都ダマスに到着し
私の症状を聞くと、すぐに「自律神経失調症ですね。とじこもらず
外出するように」と言い、薬は一つもくれなかったが、その日を
境に、3ヶ月続いた症状がピタリと治まった。

シリアの二年間を思い出すといつも、天皇の侍従長の様な
威厳とやさしさを兼ね備えた栗野大使の堂々たる体躯と、
小さい正露丸のビンが目に浮ぶ。

【八木先生評】
外国で暮らすと、水が合わないなど、色々の原因で、体調を崩してしまいますが、慣れると何でも無くなる、と言うことも多いようですね。

文章教室 課題「薬」 2004年9月28日作成10月20日返還

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八木先生は読み終わって「ええ人やないか・・・・たよりないな」
と相矛盾する感想を述べられたが、誠にその通り、善意に満ち
且つ実効性の少ない行動・・・いかにもお役所らしい・・だと思う。

つい最近、正露丸の広告で「当社は日本人の海外活動を支援して
います」と言う文を見つけた。ではあれは栗野大使の常備薬でなく、
製薬会社からの試供品だったのかな??

→「父母と私とシリア」17-8-14
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
« 青鷺(あおさ... 22歳 »
 
コメント
 
 
 
Unknown (おキヨ)
2008-12-23 00:50:12
海外へ行きたくてご主人と結婚を。。。丸呑みしませんが、〔好きなだけ絵を描いたら?〕という言葉で結婚に踏み切った私と共通点があるような・・^^

せっかく〔写真がお上手〕と言ってくださったのに無反応でスミマセンでした^_^;
 
 
 
Unknown (Bianca)
2008-12-23 17:47:56
旦那様のセリフから推察すると、むこうが積極的な感じがします。うちは渋る相手に無理矢理の押しかけでした。イエイエ「写真が上手」なんて、駆け出しにほめられれたくない気持分かります。美空ひばりに、「小母さん、歌うまいね」と近藤正彦が言ったようなものでしょうか。
 
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