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雌雄を決す

   
最初の朝、まだ歌うと思われていたころ

「ゆうべはどうだった?」が、朝ごとの挨拶になっている。かれは夜勤明け・・・勤務とは川向うの姑の家で、夜中、認知症の彼女に付き添うことで、もちろん無給だが、もう2年近く続いている。たずねているのは、私が姑の様子を、ではなく、彼が我家の食客の様子を、なのだ。「鳴かないよ」と、こちらも同じ答を繰り返している。

あの不思議な音(→8/28)をたずねて3階まで行った翌朝、台所の隅にいた虫に餌をやった時は、それが前夜歌っていたコオロギであるとばかり思っていた。2、3日は鳴声が聞えたが、その後、ピタリと音がやんでしまった。しかも忘れた頃にふいっと顔を出す。

床が汚れないように、餌用の皿を置いたり、夜行性なので箱で陰を作ったり、先日は、百均店で買った虫かごに庭の草を敷き詰めたりと、夫は小まめに環境を整えてやったのだが、そのサービスは黙って受けつつ、ずーっと音なしのまま。「どうやら、これはオスじゃないね、メスだね」と私は10日位同じことを言っている。「そうかなあ、メスかなあ、でもあの朝見たのと同じ虫だと思うがなあ」と、彼も同じことを答え、未練がましく胡瓜をやっている。第一、初めからメスだった可能性もある。鳴いていたオスはどうなったのだろう?本人に化けた別人と言えばまるで「太陽がいっぱい」。アラン・ドロンにしては地味だが。

さすがに、3階の人が電話で「オスですか?」と言ったのは正鵠を射ていた。その道の専門家か愛好家なら判るのだろうが。鳴かないからと今さら放逐するのもいかにも冷酷な仕打ちに思えるし、そもそも鳴くと鳴かないは、それに備わった本能によるのだし、トンビが輪をかくのが人間のためでないように、虫が鳴くのも人間のためではない。わが家にいついたのは、外より安全で食べ物も手に入るからだろう。
「雌雄を決す」ことではなく、無用の存在と共存することが当面の問題になりそうだ。

【追記】「雌雄を決す」は差別語だと言う説がある。歴史的な言葉を差別語として片端から使用禁止にするのはどんなものだろう。「女中」「めくら」「きちがい」「ボケ老人」「痴呆症」「未亡人」などの語を抹殺することは?もっとも私も面と向ってそういう語は発しないが。

→「天井から降る不思議な音」2010-8-28
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