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映画「人間失格」


2010 角川映画 136分 レンタルDVD 原作 太宰治 監督 荒戸源次郎 
出演 生田斗真(大庭葉蔵) 寺島しのぶ(ツネ子) 三田佳子(老婢・テツ)小池栄子(女性記者・シヅ子) 
   室井滋(薬局の女主人・寿) 大楠道代(京橋のバーのマダム・律子)石橋蓮司(家令・渋田=ヒラメ) 
   森田剛(中原中也) 伊勢谷友介(堀木正雄)麿赤児(堀木の父) 柄本佑(竹一)
   石原さとみ(煙草屋の娘・ヨシ子) 坂井真紀(下宿屋の娘・礼子) 

1.私との関係
おくてだったのか、太宰治の「生まれてすみません」を17歳か18歳で初めて聞いた時は、何も感じなかったが、大学も後半で初めて「人間失格」を読み、熱狂的なファンになった。主人公の「世の中が怖い。人が怖い」「レストランに入ったり電車の切符を買ったりするのも怖い」という感覚は良く分かった。しかし青春の熱病は時とともに消え去り、今は思い出があるだけ。映画は「パンドラの匣」を愛す。

2.自殺体質
人類の何パーセントかは自殺すると統計的に決まっているらしいが、太宰はそれだったのだろう。つまり生まれつきの体質・気質が、いつも死に向かっていたのだ。

3.「ふつう」が解らない。
多分彼は発達障害があったのだろう。建前と本音を使い分けること、嘘も冗談も解らない。

4.特権階級
実家は青森県金木の資産家で貴族院議員を父に持ち、馬車を乗り回すような生活で貧しい大衆からは浮き上がっていた。革命が来たらギロチンにかけられるという負い目から、左翼運動に参加するが、しょせんは「日陰者」の雰囲気に惹かれただけであった。(この部分は映画にはない)

5.坂口安吾曰く
これは太宰の代表作とは言えない。二日酔い的な心理状態で書いた小説で、むしろ「津軽」がよい。

6.キャストとスタッフ
生田斗真は太宰と違い、現代の美青年でジャニーズ系である。
監督は彼の美貌にうっとりしたらしいが、どちらも原作を読んでいないらしい。

男優では竹一の柄本佑が良かった。伊勢谷友介(堀木)と森田剛(中也)と石橋蓮司(渋田=ヒラメ)および坂井真紀(下宿屋の娘)は演技過剰でうるさく感じた。そのほかの女優陣は寺島しのぶ、室井滋、小池栄子、大楠道代、石原さとみなど殆ど全員がしっくりと役になじんでおり、特に、三田佳子のテツは多分乳母のタケと母を理想化し、原作とは似ても似つかぬ人物像だと思うが、入神の演技。コメントを見ても理解力があることに感嘆した。息子の非行に際しては評価が低落したが、「ああ役者馬鹿なんだなあ」とさとる。女優陣がこれほど良いのは、太宰治の世界は女性の世界なのだろう。男性には理解しがたい、というより理解したくない、なぜならこれが理解できては、生きていけないからだ。
ただし森田(中原中也)が「青鯖が空に浮かんだような顔をしやがって。全体おめえは何の花が好きなんだ」と葉蔵にいうのは出典はしらないが、まさに詩人の言葉と感じる。知らなかったけれど、中也と太宰は同人誌活動もしていたらしい。ただし、中也は山口の出身、「おめえ」というかな?それに
                                   



澄んだ瞳の中也とふてくされた森田剛 まるで顔が違う、と思うのは私だけだろうか?

海や山野の風景など、映像の美しさは「赤目四十八滝心中未遂」の監督らしい。

堀木と葉蔵の「ふたり顔を合わせると、みるみる同じ形の同じ毛並の犬が降雪の巷をかけめぐる」ような」交際はよく表現したと思う。堀木の実家の感じも、下町の庶民の貧しい暮らしの中で堀木が一人だけ、二階で文化的生活を享受している様子が良く出ている。良子とのいきさつも、そら豆の件も、感じが出ている。渋田と息子の食事風景も良い。たたみいわしをじっと見つめるシーンも。

7.時代背景 
  ベルリンオリンピック(「前畑がんばれ」の放送)双葉山連勝と男女川 二二六事件と昭和維新の歌 「臨時ニュースを申し上げます。大本営陸海軍部、十二月八日午前六時発表。 帝国陸海軍は今八日未明 西太平洋においてアメリカ、イギリス軍と戦闘状態に入れり」のラジオ放送、中原中也、壇一雄、小林秀雄、菊池寛、などを登場させたのは、時代の空気を醸し出すためだろうか、作家の遊び心だろうか、通り一辺で薄弱な印象に終わる。

要するに、この映画は太宰治の前半生を外側から、絵巻物のように描いたものである。

字幕にあるように「人間失格」が日本の文学を代表する傑作であるとはとても思えない。ただ、いつの世も若者の心をとらえる小説だろう。「暗闇でそっと手を握られたような」と小林秀雄が言うような感じで。

以前は40点を付けたが、こうしてじっくり見るとおまけして50点をつけたくなってきた。

太宰治→「ヴィヨンの妻」9-10-16「パンドラの匣」10-11-3「旅情…?」8-8-2
荒戸源次郎&寺島しのぶ→「赤目四十八瀧心中未遂」13-11-6
小林秀雄 →「走り読み4冊」    13-11-2 
中原中也 →「帰郷」8-8-8 「走り読み4冊」13-11-2
生田斗真 →「ハナミズキ」10-8-21「源氏物語千年の謎」11-12-17
石橋蓮司 →「竜馬暗殺」10-8-29
大楠道代 →「第二の性」9-12-31
寺島しのぶ→「キャタピラー」11-3-13
小池栄子 →「八日目の蝉」12-3-27
柄本佑  →「ラストゲーム」10-7-25
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