ハンスの旅

遍歴職人経験者のハンスは、日本で３週間の休暇を過ごしました。
その少し前、彼が訊きました。
「中古自転車をどこかで買えないかな」
「リサイクルショップの中古もディスカウントショップの新品も値段に大差ないんだよ」
「どうして」
「まあ、流通のこととかいろいろあってね。だから買うなら新品の方が良いよ」

ハーンス。そいつで旅をするつもりだな。
オレも昔、初めてヨーロッパに行った時はドイツから入ったのだが、最初に自転車を確保したもんだぜ。

そして数週間後、府中の現場にハンスが現れました。
いやあ、良い旅をして来たようです。

まず、ディスカウントショップで自転車を入手して鎌倉へ行ったそうです。
そこで暑さにやられてしまいながらも念願の伊豆へ。フェリーで土肥から清水へ渡り、海岸線沿いに渥美半島からまたフェリーで鳥羽へ、紀伊半島をぐるっと海岸沿いに和歌山、内陸に入って高野山に登り、奈良、京都。京都で自転車を売って電車で東京に戻ってきたというルート。
多くは野宿だったそうです。今年は天気に恵まれたね。。
うん、すばらしい！すばらしいよ。海沿いでフェリーをうまく利用しているな。

「自転車はどんなの？」
「普通のシティサイクル（ママチャリ）それで前かごに荷物を放り込んだだけ」
キサマッ　漢（おとこ）だなっ！そのこだわりしかと受けたぞ。
男のこだわり、カッコよくいえば美学というのはしばしば合理性に反しているものです。
自転車であれば、ピッチリのウェアでスポーツ用自転車というのが効率としては良いです。
しかし、彼は日常のカッコで、日常の自転車で非日常の旅に臨んだのです。
ああ！わかる、わかるぞ。ハーンス！

日本の自転車の交通インフラは遅れていると言われています。
まあ、それは事実ですが、長距離を旅するのにヨーロッパが具合が良いかというと必ずしもそうではありません。
ドイツでも街場は自転車専用道が整備されていても、街外れではそうでもありません。
市街地を出れば普通、速度制限は時速100キロです。
道だって広いとは限りません。そこを高速道路並みの速度で走る自動車と一緒に自転車で走るのはかなり怖いです。

日本の良いところ、美しさをよく外国人に教えられます。
政治のゴタゴタだって、役人の怠慢だって、大企業の横暴だって、多かれ少なかれどの国も抱えているものです。
「～国はすばらしい」
などとニュース記事を見て単純に言えるのは無知のなせる技です。
ネットはすばらしいツールだけれども、ディスプレイ越しの文字と音と映像の伝達しか出来ません、当たり前ですが、発信されない情報は伝えられることはありません。
そこの人にとってのアタリマエや普通、言うまでもない常識というのはあまり発信されないものです。
でもそこにこそ、大事な情報が隠されていることもあるのです。
やっぱりね、人や土地と直接ふれあい語り合うことを忘れちゃいけないよね。

すべての旅を愛する者達に幸いを！