吉倉オルガン工房物語

お山のパイプオルガン職人の物語

ある出会い

2012年06月17日 | 自分のこと

11年前、溶接焼けで顔がぼろぼろの僕に特別任務が

時は夏、ヨーロッパの夏はバカンス。ドイツ人だってしっかり休んで遊びます。
我らが日本企業はその辺の読みが甘くて、ドイツ人はそんなに休まないだろうと踏んでいたよう
です。
勤勉なのと休まないことはイコールではないのですけどね。

さて、予定の品がドイツから届かない。生産に支障が出る、さて困ったというところで、溶接焼け
で顔がぼろぼろの男が志願したわけです。
直接車で取りに行きますと。

僕は休みには、会社から用意してもらっていた車ですでにチェコからドイツに出かけたりしてい
て、道路事情はわかっていたので。
そんなわけで、チェコのプルゼニから(プルゼニュって感じなのですが、プルゼニって表記の方
が多いようなので)ドイツはシュトゥットガルトを日帰りとなりました。
ま、大したことは無かったです。

先方の会社は、タンポ社といいます。
タンポ印刷ってご存知ですか?
パッド印刷というのが一般名詞なのですが、その技術の創始会社の名からタンポ印刷と呼ば
れることも多いのです。
PC、テレビなどの電化製品のロゴ、特にプラスチック製品の三次曲面への印刷に使われている
技術です。
参考サイト
実は身近な製品に非常に多用されている技術です。

夏期休業中の会社には担当の方だけが残っていて、必要な品の引き渡しを済ませ、その後、
ご老人が僕らを中華料理屋に招待してくれました。
ドイツの高齢者は英語を話せない方が結構多いので心配だったのですが、氏は若い頃アメリカ
に居たこともあるそうで、英語が達者で助かりました。
話してみて驚いたのは、氏がそのタンポ社の創始者だったのでした。
独動的な技術を以て、世界で圧倒的なシェアを誇るというある意味、企業の理想です。
同行者を吹っ飛ばして、氏との話に入り込んだのでした。

国の事情で家族を割かれて財産を失ったり、生きるために新天地へ行ったり、そんな中で将来
性のある技術を見つけてそれを育てて世界的な企業を立ち上げたのです。
スイスの時計工房で文字盤を印刷するのに、ゼラチンを使った転写法があったそうでそれを発
展させたのがパッド印刷だそうです。
まさに不屈の技術者です。

当時、アメリカで大破した後の僕の心には深く響いた出会いでした。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿