1609（慶長14）年の薩摩侵攻以前の中世の時代の沖永良部島の歴史は、記録されているものが殆ど存在せずなかなか見えてこないのですが、琉球士族の家譜の中に、沖永良部の役人になったり実際に赴任していたと思われる記録がわずかに残っています。
今回はその中でもVol.367で以前にも書いたことがありますが、1575年3月の尚永王の時代に35歳（1540年生まれ）で沖永良部島の役人になった容義貫の話です。
容義貫は実際に沖永良部島に赴任していたかどうかは明確ではありませんが、彼は沖永良部島の永良部首里大屋子の娘であった真鶴と結婚しています。容家の家譜からは、義貫は役人としか記載が無いので首里大屋子であったかは不明です。
この頃に首里大屋子として沖永良部の大屋子であったのは栄吉久という人物です。彼は1568年に35歳で任命され、沖永良部島で1580年4月5日に他界していますので、島に赴任していたようです。容義貫が1575年に役人になったのは、栄吉久が病床で、その後任で首里大屋子であったのかもしれません。
妻の真鶴は栄吉久の娘であったかともとれますが、栄吉久は1536年生まれになりますので、1540年生まれの容義貫の妻では年代が合いませんので、それ以前に存在したであろう沖永良部首里大屋子の娘だったと思われます。
この容義貫ですが、第二尚氏第4代の王であった尚清王（在位1527年 - 1555年）4男であった尚鑑心の孫であったという情報が入りました。
尚清王の父である尚真王は自分の子供たちを奄美の島々に派遣して統治させたという伝承もありますので、その次の王も同様に王家に繋がる人を沖永良部に送った可能性があるということです。
そこで少し年代を見てみることにしました。
尚清王の子供の男子は長男から10男までいます。公表されている情報から、生年月日が分かるのは次男の後に第4代王となった尚元（1528年生まれ）と7男の尚宗賢（1538年生まれ）で、4男とされる尚鑑心はその間に生まれたことになります。
母親がそれぞれに違うようですので、仮に次男と同じ1528年生まれだったとして、14歳で子供が生まれたとして1542年ですから1540年生まれの容義貫では孫にはなりません。数年の誤差があったとしても、尚鑑心の子供だったとするのがぎりぎりのラインです。
もしくは尚鑑心自身が容義貫だったことも考えられます。
そうなると7男の1538年生まれの後になってしまいますが、母親が違いますし尚鑑心の生卒は不明ですから、順番が違った可能性はあります。
これらのことがもっと詳細に分からないのかと情報を探してみたところ、容家の子孫である山田政忠氏が1969年に書いた「琉球年代記」という本に出会いました。
その本の序文によると、尚清王子尚鑑心大伊江王子が容姓大宗山田義貫となっていると書かれています。そして尚清王の世子であった尚禎王子と尚鑑心王子は同じ母親から生まれたそうです。
世子の尚禎は妃ではなく夫人との子供ですが、父王と同じく中城王子となっていましたので、もしかしたら世子だったのではないでしょうか。しかし1543年10月8日に21歳の若さで他界したようです。
それで、同じ母親から生まれた尚鑑心と妃から生まれた二男の尚元との間に後継者争いがあり、最終的に尚元が第5代の国王となりました。尚元が病弱であったために、尚鑑心を後継者に押す声もあったようです。後継者争いがあったのは、父王が亡くなった1555年頃です。
尚鑑心はそれで逃亡したのか、王家のデータからは抹消され生没不詳、後裔無となったのでしょうか。
そしてこの本には、尚鑑心は1540年生まれと書かれています。そうなると容義貫の1540年生まれとマッチします。
孫の代で士族に復活したという話もありましたので、それは容義貫の孫という意味であれば、義貫が最初に役人になったのは1575年で、その時に長男の義重は18歳で成人していますので、その子供の世代という意味でしょうか。長男義重の子供は1588年生まれですので実際には1575年には孫は生まれていませんので、ざっくりとした話だったのかもしれません。
正式な記録があるわけではないので、いろいろな説もあるようですので、もちろん断言はできませんが、容義貫が尚鑑心に繋がる可能性はあると思われます。
そして容義貫が尚鑑心だとすれば、1500年代には第二尚氏の王族たちが奄美の島々を統治するために派遣されていたという話の真実味が高まりますね。
容(よう)は、琉球尚家の尚(しょう)の読み方の「よう」の音を取った名字です。これは以前にも考察しましたが、容姓を名乗られていたこと自体が、本当に尚家と繋がっていたことを表していたのかもしれません。
情報の1つとして、ここに記しておきます。
