古い本を読んでいると、これまで知らなかった新しい情報を見つける機会が多くあります。
先日読んだ本は、昭和12年に沖永良部島を探訪された野間吉夫氏の「沖永良部島採訪記」（昭和17年出版）という、当時の島の様子を詳細に記録された貴重な内容でした。
その中に、島の世之主の墓（ウファ）を訪問された記録がありました。
ウファに案内してくれたのは、宗佐久平という墓守をしている人だと書かれています。この佐久平はお爺さまの父親になる人で1867年生まれ。
野間氏を墓に案内した時には70歳でしたが、まだまだ元気いっぱいに活動していたのだと思われます。
この時に、野間氏は本家の10代目当主の武重の家も訪問されています。
家宝の支那から渡った唐時代の焼き物を見せてもらったとありますから、現在保管されている品々、もしかしたらそれ以上に残されていたものがあったのかもしれません。
焼き物以外にも薩摩の役人を接待するのに使った野風呂なども見せてもらったとあります。野風呂とは冷えた手足を温めるのに使ったという、現代版のフットバスのような物ですね。
南国でもそのような物が必要な気温だったのでしょうか少し不思議な気がしますが、今はもう残されてはおりません。
ウファについては、私が新たに知った3つの貴重な情報が書かれていました。
その1つ、ウファには2つの前庭があるのですが、なんと最初の入り口を入った庭の両サイドが当時は畑として使われていたというのです。
野間吉夫 著『シマの生活誌 : 沖永良部島採訪記』P27より
食糧難の時代ですから、出来るだけたくさんの畑をといったことからでしょうが、少し驚きでした。サツマイモなどを作っていたのでしょうか。
今は木々も伐採されていますが、当時はソテツの木もあったのですね。
そしてもう1つの驚くべき記録が、なんとこの世之主の墓は初代から3代の世之主の墓だというのです。現在に伝わる伝承では、納骨堂の中央に安置されている3基の厨子甕は、世之主と奥方、長男の3名のものだということですが、それとは異なり3人の世之主たちのものだというのです。
確かにこれまでも様々な古書の中には、永良部世之主は3代で途絶えたなどと書かれていたのを目にしたことがありました。しかしその詳細は不明で、いつの時代の誰なのかも分からずで、いろいろある伝承の1つかと捉えていました。しかし実際に島を訪問され、当家の家族と面会されてのこの記録。曖昧な情報では書かれないと思うのですね。
この話が事実であれば、昭和の初期頃まではウファには初代から3代目までの世之主が眠っているという認識だったのでしょう。そのように伝承されてきていたということです。
本家の7代目当主であった平安統惟雄が1850年に書いた「世之主由緒書」には、3つの厨子甕が誰のものであったのかといったような詳細は書かれておりません。しかし近年までは後蘭孫八と屋者真三郎の遺骨が一緒に置かれていたと書いてあります。
1850年当時に近年まで2人の厨子甕はウファにあった。しかし今は無いということなのだと思います。
しかし現在はこの2人を含む4人の四天王といわれた者たちの厨子甕が納骨堂の四隅に安置されています。野間氏も四天王の話を聞き、厨子甕をご覧になっていますので、事実かどうかは不明ですが昭和12年には四天王伝説はすでに出来上がっていたということです。
初代から3代までの世之主。謎が深まってしまいました。古い話を知る人達がだんだん少なくなってきていますので、可能な限りの情報を集めていこうと思います。
3つ目の記録として、後蘭孫八の子孫になられる平家を訪れた時に聞いた話として、孫八の墓は城跡である平家の屋敷の敷地内にあるが、300年ほど前にウファの方に移したというのです。昭和12年（1937年）から300年ほど前といえば1637年頃。
ウファができたのは1600年代後期頃といわれていますので、年代的にはまあ合うと思われます。
孫八本人の墓からわざわざウファに遺骨を移したということは、それだけ孫八と世之主の繋がりが深かったのだと思います。
世之主が3代いたこと、そしてウファにその3代が眠っていること、約300年前に孫八の遺骨がウファに移されたことなど、新たな情報でまた色々と考察が広がります。
