アダンの森に葬られた世之主の妹ですが、そのまま静かに眠りにつくことができなかったようです。
海岸線の道路では、昼下がりが来ると女用の麦わら帽子を小脇に抱え、身の丈ほどの長い黒髪を後ろに垂らした若い女の人の姿が通行人の前方に忽然と現れるようになったのだそうです。そしてまた煙のようにいつの間にか消えてしまうという評判が広がって、昼下がりにこの道を通る人がいなくなってしまったのだとか。それでユタに頼んで占ってもらったら、「このヤマガマは村の下に当たるので、昇天できずに彼女の霊はさまよっている。村の上の高いところで海の彼方の見えるところに移し祀れ」という神の啓示があったとのことで、ニューガニメエのテエの山の南に向いた洞穴を選んで移し祀ったのだそうです。
それがノロ墓と言われていた洞窟墓です。
越之山神社の裏手の山にあり、高台となっておりノロの出身であった沖縄の北部地方を向いているのだそうです。
こちらのお墓に移ってからは、幽霊は出なくなったということでした。
彼女は生前に神の剣を一振り持っており、これは遺骨とともに厨子甕に納めて洞穴に祀ってあったそうです。明治の末期頃までは錆びついたまま誰も手入れをすることなく、また敬遠して誰も手掛ける者もなく保存されていたが、ある時に村の若者たちの夜遊びの賭け事に、身元不詳のヤンバルカミという男が取り出してそのまま行方不明になったというのです。誰かに渡したとか、どことなく放り捨てたとかまちまちに言い伝えられており、真相は定かではありませんが、その関係者は一人残らずそれぞれ神罰があたり、ヤンバルカミは気が狂って死んでしまったのだそうです。
約500年余り保存されていた剣がわずか100年ほど前に所在不明となってしまった。
その剣が残っていれば、この伝承の歴史的検証に大いに役立ったと思われます。今となってはそれができないことが非常に残念ですね。
海の見える高台の洞窟に移ったお墓ですが、これはまだ続きがありますので次回に書きます。