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巻13 936
永良部世之主 / 選んでおちやる 御駄群れ / 御駄群れや / 世之主ぢよ
待ち居る 又離れ世之主 又金鞍 描けて / 与和泊 降れて
永良部世之主、離れ島の世之主の選んでおられた馬の群れ、馬の群れは世之主こそ待っている、金の鞍を掛けて、与和の港に降りて
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このおもろは、沖永良部島の島主であった世之主のもとに馬が運ばれて、馬たちが与和の港で降りて世之主を待っていることを謡われているそうです。
この歌は、馬との関連から倭寇をイメージしたところがあり、倭寇は騎馬隊を編成し、馬を操ることに長けていたため、最近の研究では沖永良部島は実は琉球王国の牧があったのではないかと考えられているそうです。
琉球が中国へ多くの馬を朝貢の品としていたことも、この沖永良部で飼育されていた馬が使われていた可能性があったということです。
昭和の始め頃までは、沖泊あたりの岬の上で馬が放牧されていたと聞きますので、島は馬の放牧飼育に適した場所だったのかもしれません。
そしてこの馬の群れは、金の鞍をかけているのです。この金の鞍をかけた謡は他にもいくつか登場するのだそうですが、どれもみな金の鞍は富の象徴だったことを意味しているといいます。
沖永良部島の世之主は、そのようなりっぱな鞍をつけた馬の群れを手に入れた人物として、このおもろに謡われているのです。相当な富を持っていたようですね。
他にも沖永良部島の豊かさを謡ったものがあります。
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巻13 861
永良部世之主 / 選でおちやる 能作 赤頭 / 百読の真絹 / 取て
み(お)やせ 又離れ世之主の / 選でおちやる
永良部世之主の、離れ世之主の選んでおいた能作(芸事)、赤頭(若衆)、密に織られた絹織物を取って奉れ
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このおもろでは永良部世之主のもとに、芸事の達者な人物や若衆がいたことを謡っています。そして百読みの真絹というのが登場します。この「読み」とは布の縦糸の本数を表す単位で、一読みは上下40本ずつの80本、二十読みは一尺の布の中に1600本の縦糸といいます。このおもろに登場するのは百読みの絹です。外来の密に織られた絹地の美しい着物がそこにあったことを表しているのでしょう。相当に高価な着物であったことが想像できます。
金の鞍を掛けた馬の群れ、高価な絹織りの着物。それらを所有する永良部の世之主。相当に富があったことが伺えます。
大富豪を思わせるおもろの中の世之主については、まだ続きがありますので次回書きたいと思います。