見つかったらどうしよう……サトルは音を立てないように注意しながら、じっと身を固くしていた。凍りついたように動きを止めていた子供は、おびえたように手足を振るわせながら、意を決したように抜き足差し足で、ドアの方に歩き始めた。しかし歩き始めてすぐ、机の下から、サトルのランドセルが飛び出しているのに気がつかず、足をつっかけ、バタンとうつぶせに倒れてしまった。
両手を伸ばして突っ伏した子供は、カーペットに手を突くと、べそを掻いてくしゃくしゃになった顔を上げた。ベッドの下に隠れていたサトルは、どこにも逃げることができず、顔を上げた子供と、思わず目を合わせてしまった。ハッと息を詰めたまま、二人とも微動だにせず、じっとお互いの顔を見合わせた。
「ギャー」と、子供が悲鳴を上げて立ち上がった。服のどこかにランドセルを引っかけたまま、部屋中を引きずりながら逃げまどった。
まるで野生の動物が、我を忘れて大暴れしているようだった。蓋がパクパクと開け閉めするランドセルの中から、教科書やノートが、バラバラと飛び出して床に散らばった。
サトルはベッドの下から上半身を出すと、「やめろよ」と言いながら、目の前に引きずられて来たランドセルに手を伸ばした。子供は何を勘違いしたのか、サトルがランドセルに手をかけたのがわかると、横取りされまいと両手でぐいっとひったくり、抱きかかえて、ぴょんとベッドの上に飛びあがった。
(取り返さなきゃ……)サトルは無我夢中でベッドの下から這い出すと、子供の後を追いかけて、ベッドの上に飛びあがった。すると、ベッドの頭の方の壁にも、いつの間にか黒い大きな穴が口を開けていた。逃げた子供の後ろ姿が、その穴の奥にちらりと見え隠れしたような気がして、サトルは迷うことなく、黒い穴の中に飛びこんだ。
ゆるゆると、水の中を歩くような浮遊感にとらわれた。モヤモヤと、漂っていた色が形となり、油絵の具のように幾重にも重なり合うと、やがてしっかりとした絵となって、アニメーションのように動き始めた。サトルは、まったく知らない世界へと、気がつかないうちにどんどん進んでいった。
遙かに遠い、夢の世界へと――。
両手を伸ばして突っ伏した子供は、カーペットに手を突くと、べそを掻いてくしゃくしゃになった顔を上げた。ベッドの下に隠れていたサトルは、どこにも逃げることができず、顔を上げた子供と、思わず目を合わせてしまった。ハッと息を詰めたまま、二人とも微動だにせず、じっとお互いの顔を見合わせた。
「ギャー」と、子供が悲鳴を上げて立ち上がった。服のどこかにランドセルを引っかけたまま、部屋中を引きずりながら逃げまどった。
まるで野生の動物が、我を忘れて大暴れしているようだった。蓋がパクパクと開け閉めするランドセルの中から、教科書やノートが、バラバラと飛び出して床に散らばった。
サトルはベッドの下から上半身を出すと、「やめろよ」と言いながら、目の前に引きずられて来たランドセルに手を伸ばした。子供は何を勘違いしたのか、サトルがランドセルに手をかけたのがわかると、横取りされまいと両手でぐいっとひったくり、抱きかかえて、ぴょんとベッドの上に飛びあがった。
(取り返さなきゃ……)サトルは無我夢中でベッドの下から這い出すと、子供の後を追いかけて、ベッドの上に飛びあがった。すると、ベッドの頭の方の壁にも、いつの間にか黒い大きな穴が口を開けていた。逃げた子供の後ろ姿が、その穴の奥にちらりと見え隠れしたような気がして、サトルは迷うことなく、黒い穴の中に飛びこんだ。
ゆるゆると、水の中を歩くような浮遊感にとらわれた。モヤモヤと、漂っていた色が形となり、油絵の具のように幾重にも重なり合うと、やがてしっかりとした絵となって、アニメーションのように動き始めた。サトルは、まったく知らない世界へと、気がつかないうちにどんどん進んでいった。
遙かに遠い、夢の世界へと――。