くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

夢の彼方に(3)

2016-03-29 22:28:59 | 「夢の彼方に」
 見つかったらどうしよう……サトルは音を立てないように注意しながら、じっと身を固くしていた。凍りついたように動きを止めていた子供は、おびえたように手足を振るわせながら、意を決したように抜き足差し足で、ドアの方に歩き始めた。しかし歩き始めてすぐ、机の下から、サトルのランドセルが飛び出しているのに気がつかず、足をつっかけ、バタンとうつぶせに倒れてしまった。
 両手を伸ばして突っ伏した子供は、カーペットに手を突くと、べそを掻いてくしゃくしゃになった顔を上げた。ベッドの下に隠れていたサトルは、どこにも逃げることができず、顔を上げた子供と、思わず目を合わせてしまった。ハッと息を詰めたまま、二人とも微動だにせず、じっとお互いの顔を見合わせた。
「ギャー」と、子供が悲鳴を上げて立ち上がった。服のどこかにランドセルを引っかけたまま、部屋中を引きずりながら逃げまどった。
 まるで野生の動物が、我を忘れて大暴れしているようだった。蓋がパクパクと開け閉めするランドセルの中から、教科書やノートが、バラバラと飛び出して床に散らばった。
 サトルはベッドの下から上半身を出すと、「やめろよ」と言いながら、目の前に引きずられて来たランドセルに手を伸ばした。子供は何を勘違いしたのか、サトルがランドセルに手をかけたのがわかると、横取りされまいと両手でぐいっとひったくり、抱きかかえて、ぴょんとベッドの上に飛びあがった。
(取り返さなきゃ……)サトルは無我夢中でベッドの下から這い出すと、子供の後を追いかけて、ベッドの上に飛びあがった。すると、ベッドの頭の方の壁にも、いつの間にか黒い大きな穴が口を開けていた。逃げた子供の後ろ姿が、その穴の奥にちらりと見え隠れしたような気がして、サトルは迷うことなく、黒い穴の中に飛びこんだ。
 ゆるゆると、水の中を歩くような浮遊感にとらわれた。モヤモヤと、漂っていた色が形となり、油絵の具のように幾重にも重なり合うと、やがてしっかりとした絵となって、アニメーションのように動き始めた。サトルは、まったく知らない世界へと、気がつかないうちにどんどん進んでいった。
 遙かに遠い、夢の世界へと――。
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夢の彼方に(2)

2016-03-29 22:28:12 | 「夢の彼方に」
 と、かすかな物音が聞こえるのに気がついた。
 サトルは素早くベッドに飛び乗ると、布団を被り、何事もなかったかのように目をつむった。注意深い母親が、また様子をうかがいに来たのだろうと、じっと息を殺していた。
 コト……コト……という小さな音が、”がさり”とも”ごそり”とも聞こえる重たい音に変わった。まるで、迷路のようなトンネルの中を、誰かが出口を探して這い進んでいるようだった。
 不思議に思ったサトルは、頭からかぶった布団をそっと下ろすと、音がする方をゆっくりとうかがった。見ると、薄暗い部屋の中でもはっきりわかるほど、底なしのように黒い大きな穴が、ドアのすぐ横の壁にぽっかりと口を開けていた。
(なんだろう……)布団を被ったまま、頭を起こして目を凝らすと、がさごそという重たい音は、壁に開いた穴の奥から聞こえてくるようだった。
 サトルは、片手でぎゅっと布団をつかむと、敷き布団を足で蹴りながら、背中で滑るように上体を起こした。目の前に見える暗い穴は、子供なら十分に通り抜けられるほどの大きさだった。がさり、ごそりと近づいてくる音に混じって、「よっ……よっ……」という小さなかけ声が聞こえてきた。
 トットン、トットン……と、緊張で痛いくらい胸を打つ鼓動を感じながら、サトルは布団をそのままに体だけを横に動かして、ベッドの外に出た。寝返りを打つようにくるりとうつぶせになると、頭の向きを変えながらするりとベッドの下に潜った。カーペットとベッドの狭いすき間から、壁に開いた奇妙な穴をじっと見守った。今なら、ドアに駆け寄って、部屋の外へ逃げられるかもしれない。早く母さんや父さんに知らせないと――。
(よしっ――)サトルは小さくうなずくと、うつぶせのままベッドの下から這い出し、ドアに駆け寄ろうとした。
 ピョン――と、穴の向こうに小さな白いモノが見え隠れした。サトルは、あわてて足を止めると、つんのめりながら踵を返し、滑りこむようにベッドの下に戻った。狭いすき間から、息を殺してよく見ると、小さな子供の手が、穴のふちに指をかけようとして、何度も飛び跳ねていた。
 小さな手は、穴のふちにようやく指をかけると、すぐにもう片方の手も伸ばし、「うんしょ、うんしょ」と言いながら、穴の外へひょいと這い上がってきた。逃げ出したい気持ちを抑えつつ、じっと様子をうかがっていると、ヒゲを生やした小さな子供が、ひょっこりと顔をのぞかせた。
 どてっ、と穴から部屋に落ち、「イテテテテ……」とぶつけた尻を手で押さえた子供は、キラキラとする王冠のような物を頭に乗せ、金色のボタンをつけた青色の服を着て、足には白いタイツを履き、肩からはひらひらとなびく、これもまた金糸をあしらった青いマントをつけていた。サトルの腰ほどまでしかない背丈は、まだ小学校にも通っていない子供のようだったが、その顔には、サトルの父親よりも立派なヒゲが生えていた。
 サトルは、おどおどとした子供の様子を黙って見ていたが、部屋の中をウロウロと歩き回る子供の姿を追いかけるうち、思わずごつん、とベッドの下に頭をぶつけてしまった。
(あたたっ……)と、サトルが片手で頭を押さえると、物音に驚いた子供は、ハタと足を止め、顔を青ざめさせながら、キョロキョロと不安そうに周囲をうかがった。
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夢の彼方に(1)

2016-03-29 22:22:16 | 「夢の彼方に」
         1
 もう少しで冬休み。
 凍りつきそうな空気が、今夜は小さな雲のかけらも追い払い、星座を探すのがおっくうになるほど、澄み切った空に満天の星をきらめかせていた。
 冷たい窓ガラスが、吐息で白く曇る。サトルは、窓が曇るたびに指先でこすりながら、明るい星空に照らされた町を見下ろしていた。
 いつもはにぎやかな町が、しんと静まり返っていた。ブロロ……家の前を走りすぎる車も、どこか寂しげだった。ひんやりとするカーテンをどけて、後ろを振りかえった。薄暗い部屋の中、壁にかけられたフクロウの時計が、ぼんやりと深夜を指しているのが見えた。
 下の階から、いつになく陽気な父親の声が聞こえていた。夕方家を訪ねてきたオジサンは、父親と小学校からの幼なじみだという。明日はまだ学校があるからと、母親に部屋を追い出されるまで、一緒になって騒いでいた。パジャマに着替えてベッドに入っても、聞こえてくる楽しげな笑い声が、耳元でひそひそと夜更かしを誘うようで、目がさえてまるで眠れなかった。
 トトン、トン……と、階段を登る足音が聞こえた。
 サトルは慌てて窓から離れると、何事もなかったようにベッドに潜りこんだ。
 ――ノブが音もなく回り、ゆっくりとドアが開いた。様子をうかがいに来た母親が、そっと顔を覗かせた。
開きはじめたドアの間から、音もなく眩しい光があふれ、時が止まったように動かない静かな部屋の中を照らしていった。ベッドの足に伸びた光が、小高い段差を苦にもせず、あっという間に布団を駆け上がり、じっと息を潜めているサトルの横顔を、明るく浮かび上がらせた。思いもよらず真っ直ぐに顔を捉えた光が、サトルの目を覚ましてしまうのではないかと、母親はハッとして、わずかにドアを戻した。
 息を潜めながら、母親はサトルが眠っているのを確認すると、ゆっくりとドアを閉めていった。
 閉じて行くドアに合わせて細くなっていく光が、ベッドのすぐ横を照らしたまま、ゆらりと動きを止めた。暖かそうなカーペットの上には、バラバラに積み上げられた教科書と、キャラクターのシールを貼った傷だらけの筆箱が、大きく口を開けたランドセルと一緒に放り出されていた。
「まったく……」と、母親は怒ったようなため息をもらした。
 ドアの正面に見えるフクロウの時計が、チックタックと秒針を刻んでいた。眼下で、心地よさそうな寝息を立てているサトルのことなど、知らんぷりをするようにそっぽを向いていた。
 カチリッ、とドアが閉まると、部屋はまたしんと静まり返った。目を閉じたまま、むくりと体を起こしたサトルは、階段を下りていく足音が聞こえなくなると、目を開けてそっとベッドから抜け出した。
 薄暗い中、膝立ちになってランドセルをつかみ寄せると、しまいかけだった教科書とノートをひと抱えに集め、いっぺんに中へ押しこんだ。
 パンパンに膨らんだランドセルを机の方へ押しやり、立ち上がろうとすると、
”コトリ、コトト……”

 
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よもよも

2016-03-29 06:33:44 | Weblog
なんとも、

あんま事件とかの事とか書きたくないけどさ、

誘拐されてた女の子、助かって良かったよね。

憤りしか感じないし、

エリートづらして留学までしてたってんでしょ、

あきれてヘドも出ないわ。。

もしもできるなら、

日本中の家屋立ち入り検査して、

同じ様に泣いてる人がいないか確認してほしいね。

腹立つ。。
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