「くそっ、この小娘、離せ――」
ゲリルはなんとかアリエナを離そうとするが、アリエナはいくらぶたれても、歯を食いしばって離れようとしなかった。
「アリエナ」と、カッカが開け放たれた扉から走ってきた。
「この……」と、ゲリルは、拳銃を左手に持ち替えると、グレイを撃とうとした。が、素早く駆けつけたカッカに叩きのめされ、引き金を引く間もないまま、崩折れた。
「さあ、今のうちだ。逃げるんだ!」
カッカはグレイを担ぐと、アリエナと共に廊下へ走って行った。廊下では、牢に捕らえられていた男達と、狼男がやって来たことを知った僧達が、もみくちゃになって暴れていた。
「アリエナ、グレイを頼む。どこか遠い所へ逃がしてやってくれ」と、カッカはグレイを下におろした。
そこは、教会の厨房だった。ゲリル達の食事を作っていただろう料理番達が、床の上でぐったりと伸びていた。
アリエナは、グレイの腕を肩に回して立ちあがった。
「よし、おそらくグレイもここから忍びこんだんだろう。さ、早く勝手口から外へ出るんだ」と、カッカは言った。
「カッカさん――」
「早くするんだ、ここはおれにまかせろ」
アリエナはうなずくと、「がんばってください」そう言って、外へ出た。
外は、もう真っ暗だった。正面の門の所から、騒々しい声が聞こえていた。
「グレイ、しっかりして。歩ける?」と、アリエナは脂汗をかいているグレイに聞いた。
グレイは、かすかにうなずいた。
「それじゃ、行くわね」と、アリエナはグレイの体を支えながら、すぐさまひとけのない路地に逃げこんだ。