「――どうしたの」と、サトルが言うと、二人のそばを離れずに着いて来ていた子犬が、ぽつり、と砂漠の真ん中に座りこんでいました。
「どうしたの、動けないのかい」と、心配したサトルが子犬に駆け寄ろうとすると、あわててリリがサトルに抱きつき、足を止めさせました。
「どうしたって言うのさ、ぜんぜんわからないよ」と、サトルはいら立ちまぎれに言いました。
リリは、サトルの言葉が聞こえたように、まっすぐにサトルの目を見て、しきりに首を振るのでした。
「――ワン」
と、空耳でしょうか。子犬が鳴いたような気がして、足元を見ると、先ほどまで動こうとしなかった子犬が、二人のそばに、何事もなかったようにやって来ました。
リリは、近づいてきた子犬に目をとめると、ブルブルと震えながら、サトルに抱きつきました。
「怖がる事なんてないよ、まだ小さな子犬なんだから」と、サトルは抱きついていたリリの腕を放すと、
「――競争だよ」
樹王に向かって、残った体力を温存することなく、走り出しました。
やっと戻ってこられた、といううれしさで、サトルは満面の笑みを浮かべていました。
しかしリリは、走り出したサトルを死に物狂いで追いかけるように、足元をふらつかせながら、走っていました。まるで、命からがら、逃げているようでした。
樹王の元に戻る帰り道、いつの間にか二人の仲間になっていた子犬も、サトルと一緒になって、走り出しました。
子犬は、サトルとリリの間を行ったり来たりしながら、ゴールの樹王目がけて走り続けました。
意外にも、誰よりも早く前に出たのは、リリでした。
サトルが、どこにそんな力が残っていたんだろう。と、不思議に思うほどの駆け足でした。
先頭を行くリリを追いかけて、子犬も負けじと後に続きました。
「早いってば、待ってよ――」
サトルも、息を切らせながら最後の力を振り絞りましたが、勢いのあるリリには、とうとうかないませんでした。
リリは、樹王の元に戻ってくると、太い根の陰に隠れるように、うずくまりました。
後を追いかけてきた子犬が、息を切らせながら、リリのそばで跳ね回っていました。
「――ただいま」
と、少し遅れて、サトルが樹王の元に戻ってきました。
「無事だったか」と、樹王は目を細くして言いました。「リリを助けてくれて、ありがとう」
「どうしたの、動けないのかい」と、心配したサトルが子犬に駆け寄ろうとすると、あわててリリがサトルに抱きつき、足を止めさせました。
「どうしたって言うのさ、ぜんぜんわからないよ」と、サトルはいら立ちまぎれに言いました。
リリは、サトルの言葉が聞こえたように、まっすぐにサトルの目を見て、しきりに首を振るのでした。
「――ワン」
と、空耳でしょうか。子犬が鳴いたような気がして、足元を見ると、先ほどまで動こうとしなかった子犬が、二人のそばに、何事もなかったようにやって来ました。
リリは、近づいてきた子犬に目をとめると、ブルブルと震えながら、サトルに抱きつきました。
「怖がる事なんてないよ、まだ小さな子犬なんだから」と、サトルは抱きついていたリリの腕を放すと、
「――競争だよ」
樹王に向かって、残った体力を温存することなく、走り出しました。
やっと戻ってこられた、といううれしさで、サトルは満面の笑みを浮かべていました。
しかしリリは、走り出したサトルを死に物狂いで追いかけるように、足元をふらつかせながら、走っていました。まるで、命からがら、逃げているようでした。
樹王の元に戻る帰り道、いつの間にか二人の仲間になっていた子犬も、サトルと一緒になって、走り出しました。
子犬は、サトルとリリの間を行ったり来たりしながら、ゴールの樹王目がけて走り続けました。
意外にも、誰よりも早く前に出たのは、リリでした。
サトルが、どこにそんな力が残っていたんだろう。と、不思議に思うほどの駆け足でした。
先頭を行くリリを追いかけて、子犬も負けじと後に続きました。
「早いってば、待ってよ――」
サトルも、息を切らせながら最後の力を振り絞りましたが、勢いのあるリリには、とうとうかないませんでした。
リリは、樹王の元に戻ってくると、太い根の陰に隠れるように、うずくまりました。
後を追いかけてきた子犬が、息を切らせながら、リリのそばで跳ね回っていました。
「――ただいま」
と、少し遅れて、サトルが樹王の元に戻ってきました。
「無事だったか」と、樹王は目を細くして言いました。「リリを助けてくれて、ありがとう」