ソラが狙っているのは、少尉が握っている操縦桿の向かい側、計器の横にいくつも並んでいるスイッチだった。体が小さくなっているのを利用して、少尉の手が届かない場所に潜りこみ、原因がすぐにはわからない故障を起こして、飛行機がやむを得ず、修理のために引き返さなければならなくするつもりだった。ただ、実際に操縦席の前に来てみると、どうやって飛行機を操縦しているのか、どのスイッチを動かせばいいのか、まるでちんぷんかんぷんだった。
風防ガラスの奥で落ち着いている青い鳥が、興味深そうにソラを見ていた。腕組みをしながら、難しい顔をしているソラの目の前には、飛行機の床にまで届いている空間が、大きく口を開けていた。ソラは、いくつも並んでいる計器とその横に並んでいるスイッチを見上げながら、なんとか近づく方法を考えていた。少尉の膝の上を静かに歩きながら、移動する手掛かりがないか探してみたが、計器もスイッチも、壁から突き出た金属の箱にひとまとめにされ、下から近づく事はできそうもなかった。たとえ下から壁を登って行ったとしても、突き出した箱に行く手を阻まれ、無理をして手を掛けようとすれば、ひっくり返って床に落ちてしまうのは明らかだった。翼を生やして宙を飛ばない限り、深い谷の向こうに見える計器には、たどり着けそうもなかった。
と、少尉が急に足を前後に動かし始めた。足下が不安定になったソラは、両手を突き出すような格好で、うつ伏せに倒れてしまった。
不安定な気流の中に入った飛行機は、フラフラとバランスを崩していた。少尉は、強い力で引っ張られる操縦桿を戻しつつ、両足のペダルを前後して、機体を水平に保とうと躍起になっていた。
「キャッ――」
と、ウミの悲鳴が聞こえた。揺れる膝の上、体を起こしたソラは、先ほどまでいた座席の横に目を向けたが、ウミの姿を確かめる事はできなかった。
早くなんとかしなきゃ……。
ソラは歯ぎしりする思いで、手を突いたまま少尉の方へ進んでいくと、頭の上に伸びている腕を見上げた。
悲鳴を上げたウミは、座席の横にはいなかった。ウミは、ソラにばかり任せちゃいられないと、自分も操縦席の背もたれに向かい、手掛かりになりそうな鉄骨を見定めると、ソラの後を追いかけ、登り始めていた。
“このまま飛んじゃだめだ。このまま飛んじゃいけない……”
歯を食いしばりながら体重を支えていたウミは、ソラが話していると思い、無理をして顔を上げた。
背もたれの上には、誰もいなかった。お兄ちゃん、とウミが声をかけようとすると、
“このままじゃ危ない。このまま飛んじゃ危ない”
はっとしたウミは、飛行機が揺れたとたん、つかんでいた鉄骨を思わず離してしまった。
「キャッ――」
と短い悲鳴を上げたウミは、ズルズルと床に滑り落ちながら、青い鳥が自分に話しているんだ、とはっきり感じていた。
風防ガラスの奥で落ち着いている青い鳥が、興味深そうにソラを見ていた。腕組みをしながら、難しい顔をしているソラの目の前には、飛行機の床にまで届いている空間が、大きく口を開けていた。ソラは、いくつも並んでいる計器とその横に並んでいるスイッチを見上げながら、なんとか近づく方法を考えていた。少尉の膝の上を静かに歩きながら、移動する手掛かりがないか探してみたが、計器もスイッチも、壁から突き出た金属の箱にひとまとめにされ、下から近づく事はできそうもなかった。たとえ下から壁を登って行ったとしても、突き出した箱に行く手を阻まれ、無理をして手を掛けようとすれば、ひっくり返って床に落ちてしまうのは明らかだった。翼を生やして宙を飛ばない限り、深い谷の向こうに見える計器には、たどり着けそうもなかった。
と、少尉が急に足を前後に動かし始めた。足下が不安定になったソラは、両手を突き出すような格好で、うつ伏せに倒れてしまった。
不安定な気流の中に入った飛行機は、フラフラとバランスを崩していた。少尉は、強い力で引っ張られる操縦桿を戻しつつ、両足のペダルを前後して、機体を水平に保とうと躍起になっていた。
「キャッ――」
と、ウミの悲鳴が聞こえた。揺れる膝の上、体を起こしたソラは、先ほどまでいた座席の横に目を向けたが、ウミの姿を確かめる事はできなかった。
早くなんとかしなきゃ……。
ソラは歯ぎしりする思いで、手を突いたまま少尉の方へ進んでいくと、頭の上に伸びている腕を見上げた。
悲鳴を上げたウミは、座席の横にはいなかった。ウミは、ソラにばかり任せちゃいられないと、自分も操縦席の背もたれに向かい、手掛かりになりそうな鉄骨を見定めると、ソラの後を追いかけ、登り始めていた。
“このまま飛んじゃだめだ。このまま飛んじゃいけない……”
歯を食いしばりながら体重を支えていたウミは、ソラが話していると思い、無理をして顔を上げた。
背もたれの上には、誰もいなかった。お兄ちゃん、とウミが声をかけようとすると、
“このままじゃ危ない。このまま飛んじゃ危ない”
はっとしたウミは、飛行機が揺れたとたん、つかんでいた鉄骨を思わず離してしまった。
「キャッ――」
と短い悲鳴を上げたウミは、ズルズルと床に滑り落ちながら、青い鳥が自分に話しているんだ、とはっきり感じていた。