「――ジロー。ジロー、どこだ。ジロー」
青い光が、声の限りに呼ぶ声は、いくらもしない間に、海にひしめくほど集まった船員達の声で、かき消された。
「――ジロー。ジロー、どこだ。ジロー」
と、捜索は日が暮れるまで続いたが、ジローの姿は見つからなかった。
船に上がった人達は、ジローが人間だったのか、それとも人ではない別の存在だったのか、口々に思いを交わし合った。
「これが見つかった。おまえのだろ――」と、さみしく遠くの海を見ている青い光に、船員がひと振りの銛を手にして言った。
「――ありがとう」と、青い光はお礼を言うと、海底から見つけたという自分の銛を受け取った。「――」
「食われたはずなんて、ない」と、手にした銛を見ながら、青い光は言った。
そこへ、甲板の陰で拾ったラジオを手に、船の行方がやって来た。
「それって――」と、青い光は、ラジオを耳に当てながら、目を白黒させている船の行方に言った。「なにか、聞こえるの?」
「――」と、船の行方は小さく頷くと、言った。「ジローがいた時は、声なんか聞こえやしなかったんだがな。気のせいか、あらためて耳を澄ませると、確かに誰かがしゃべっているんだ」
ラジオを手にした青い光が耳に当てると、船の行方が驚いたとおり、間違いなく誰かがしゃべっているのが聞こえてきた。
「聞こえるよ。これ、聞こえるよ」
と、青い光が耳にしているのは、ジローの無事を放送しているエスの番組だった。
“ハァイ! こちら銀河放送局。
今日もあなたに送るハートのメッセージ――。
しっかりキャッチしてね”
時折入る雑音に邪魔されつつも、明るい女性の声が聞こえてきた。
“ジローは、ドリーブランドに戻りました。失っていた記憶を取り戻して、自分自身も取り返しました。
短い間だったけれど、大海原で生活する人達と出会って、一緒に海で暮らした日々は、忘れがたいものになりました。ありがとう、青い光さん。
ですって。それでは、めずらしい鯨のヒットソングをお届けします――”
聞き慣れた鯨の歌声が、ラジオから聞こえてきた。耳を澄ませていたのは、青い光と、船の行方だけではなかった。一緒に口ずさむように、海で休んでいる鯨達のうちの何頭も、楽しそうに口ずさんでいた。