「――あら、タッちゃん」
と、見知らぬおばちゃんが、奥の小上がりから、顔をのぞかせて言った。
「めずらしいね、こんな所で会うなんて」
「お、若住職じゃないか」と、その後ろから、ヒゲの生えた老人が、顔をのぞかせて言った。
「――おや、めずらしい」と、また別の老人が、アマガエルを見て言った。「よかったら、こっちに来て一緒にどうだい」
「まだまだ、食べ物もありますよ」と、姿は見えないが、奥から、別のおばちゃんの声が聞こえた。
「いやあ、みなさん。どうも――」と、アマガエルがジョッキを手に、向こうに見える団体に、挨拶を返した。
「いつからそんな、人気者になったんだ」と、ニンジンが、熱々のおでんに涙をにじませながら言った。「本性は、こんなにケチな人間だなんて、知らないんだろうな」
「いえいえ」と、アマガエルは、首を振って言った。「みなさん、私が子供の頃からの知り合いですよ。あれもこれも知られている、隠し事のできない、家族みたいなもんです」
「へぇ――」と、ニンジンは、ビールの入ったジョッキを手に、小上がりに向かって、こくりと挨拶を返した。
「顔は笑ってますけどね、冷や汗でびっしょりですよ」と、アマガエルは、ビールを口に運んだ。
「――そりゃ、ご苦労様ですな」と、ニンジンは、気味がよさそうに言った。
「じゃ、先に出るよ」と、ニンジンはビールを一気に流しこんで、席を立った。
「ちょっと」と、アマガエルは、驚いて言った。「まだ、食べ物も残ってますよ」
「病み上がりなんで、あんまり量は食えないんだよ」と、ニンジンは、申し訳なさそうに頭を掻いて言った。「知り合いも盛り上がってるようなんで、せっかくなんだから、顔を出してやれよ」
「ちょっ……」と、アマガエルは、ニンジンを引き留めようとしたが、伸ばした手をするりとかわして、ニンジンは、あっという間に店をあとにした。
「……」と、アマガエルは、厳しい顔を浮かべていた。
「――タッちゃん。ねぇ、タッちゃん」
と、小上がりに向かって振り返った顔は、いつものアマガエルの顔だった。
「よろしければ、私も仲間に入れてもらえますか」
ジョッキを手に立ち上がったアマガエルは、照れたような笑みを浮かべながら、小上がりの席に向かっていった。