「グレイは、そんなことしないわ」と、アリエナが打ち消した。「あなたは、人を食べたりなんかしない。二度も、わたしを助けてくれたわ。カッカだっておかみさんだって、だからあなたを守ろうとしてるんじゃない。グレイは、狼なんかじゃない。ちゃんとした人間なのよ」
グレイはうつむきながら言った。「そうなんだ……ぼくを信じてくれる人がいるんだ。だから、でもぼくはつらいんだ。
自分が一体何者なのか、わからないんだ。獣なのか、人間なのか。獣であるなら、それでいいんだ。ぼくは、獣のように生きる。けど、ぼくは人間の姿をしているんだ。変身したいと願うか、夜空に月が昇るまで、ほとんど人間の姿のままなんだよ。
人の中にいると、人のいいところがたくさん見えてくる。獣にはない生活の楽しさを、ひしひしと感じるんだ。
けど、人は、少しばかりの間だけ獣になるぼくを、人ではないとそしる。けなす。のけ者にする。
ぼくの命を、本気で狙ってくるんだ。
ただ生きているというだけで、銃を向けるんだよ」
「けど――」と、アリエナは言った。「わたしはそんなことはしない。カッカだっておかみさんさって、少しもそんな真似はしやしないわ」
「みんながわかってくれなきゃ、どうにもならないんだよ」と、グレイは、諭すように言った。「みんながわからなきゃ、やっぱりぼくは生きていられないんだ。人として生きていくなら、みんながぼくを認めてくれなきゃ……。
獣は、一人でも生きていけるんだ。一人で生きていかなきゃならないんだ。
でも、人は違う。獣のような力のない人間は、みんなで、助けあって生きていくんだ。
力のあるぼくには、どうしても破れない壁があるんだ。人には聞こえない言葉も、見えないものも見えるぼくには、厳しくてつらい壁があるんだ――。
女の子のアリエナなら、わかるだろ?」
アリエナは、黙って答えようとしなかった。
グレイは、日増しに回復していくかと思われた。しかし、下がったのは熱だけで、銃で撃たれた傷口は、まだじくじくと化膿していた。
「どうして治らないの――」と、アリエナは新しい布を当て替えながら言った。
「やつは銀の弾を撃ちこんだんだ」
「銀の弾?」と、アリエナは訊いた。
「ああ、満月がのぼって、少しのあいだ不死身になるぼくらでも、死に至らしめるほどの威力があるんだ」
「どうして、そんな物を異端審問官が――」