「壁を打ち壊した愛」は物語のテーマ(主題)としてもポピュラーで、有名所では「ロミオとジュリエット」が挙げられます。 これはシェイクスピアの原作も良いのですが、ディカプリオ映画がやはり1番面白く、若い男女の「愛と死」が大人達の愚かな争いを終結させるストーリーは感動的です。
男女の愛はこうした「壁を打ち壊す」コトで美しく強固になりますが、現代の日本ではもう駆け落ちなんて話は殆ど聞かれなくなり、「愛は溶けかけのアイスクリームのようにだらけたものになり…」(曾野綾子「誰のために愛するか」)という表現が適切にすら思えます。
しかし一昔前の日本では強く美しい「壁を打ち壊した愛」も描かれ、それは丸谷才一「笹まくら」に於ける、大東亜戦争の徴兵を逃れて国内を放浪する主人公とそれを支えた恋人の物語などです。 これは「国家による殺人の強制」という高い壁を打ち壊しましたが、「大切なテーマは戦後だ」というオーウェルの指摘通り、戦後の主人公の精神的葛藤が生生しく描かれています。
もう一つ「壁を打ち壊した愛」の物語を挙げるならば、以前にも紹介したゲーテの「ヘルマンとドロテーア」がお勧めです。 これは短編なのでじっくり味わっても2時間程で読め、フランス革命でドイツに逃れて来た貴族の少女と、それを助けたドイツの貴族青年の愛が、互いに争う国家という大きな壁を見事に打ち壊します。
さて、ルーガの「壁を打ち壊した愛」もこうした名作に劣らないようドラマチックにしたいと思いますが、今回は長くなったので前置きまでとし、次回からそれを描かせて貰います。