妄想ジャンキー。202x

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〈07夏、四万温泉バースデイ〉~追憶~

2007-09-05 23:36:39 | ○07夏、四万温泉バースデイ
9月4日
9:23
桶川駅

憧れの四万温泉へ行く。
隣の群馬、電車とバスを乗り継いで2時間半。
遠くもない、近くもない。
そんな中途半端な距離にある北関東の温泉が好きだ。

旅の始まりはいつも暗い時間だった。
強硬日程、根性勝負のはじまり。
夜行列車に乗るため熱海や小田原を目指す最終電車。
北海道に向かう東北本線始発に乗りたくて、まだ夜明けも薄暗い始発電車。
明るい時間は久しぶりだ。
いつも学校に行くときに乗る湘南新宿ライン小田原行きが背中を通り過ぎる。
遅めの通勤通学客が去ったホームは少し寂しい。

線路はどこまでも繋がっている。
夏はいつでもそう思い出していた。
同じ空には同じ太陽。
そこには毎年ヒマワリやコスモスが咲く。
季節はまた同じように廻ってくる。
街は変わらない、人もそこにいる。
当たり前のことを何故人は忘れてしまうんだろう。


10:41
高崎駅

どの路線が好きかと聞かれれば、飯田線も只見線も枕崎線も捨て切れないけれど、やっぱり吾妻線を答える。
カボチャ色が群馬を西へ走る温泉路線、吾妻線。


18の冬はとても寒かった。

学校に行くと言って家を出た私は、気が付いたら下り列車に飛び乗っていた。
8時50分、学校では授業がはじまっただろう。
相変わらず冴えない高田先生がが出席をとって、眠そうに。
毎日繰り返し同じ箱に入り同じ服を着ていた同じ年頃の子供達。
大海を知る前、まだ狭い井戸の中で蛙たちは何か夢中だった。
同じ教室にいる友人にイタズラメールを送る、「寝てんじゃねーよ」。
お腹が空いた、パンをひとかじり。
自販行ってくる、私も行く。
プリクラ撮ろうよ。
あ、ジャージ忘れた、借りてくるわ。
寄せ書きなんて書こうかな。
塩加減が絶妙な学食のポテト。
のんびりした昼休みの中庭。
先生の話そっちのけの授業。
くだらないことで笑いころげる休み時間。
文化祭の残骸で散らかったロッカーの上。
やけにマジメに将来を語りだす放課後。
今、青春は苦しいほどにキラキラ輝いている。

その日は不意に雪がみたくなったのだ。
毎日くりかえし、今日は二外だからこっそり本を読めない。
それにしても寒いな。

新潟に行けば雪がある。
この電車で高崎まで行けば、新潟まで続く路線があるはずだ。

何も考えずに向かった先は吾妻線の終点1つ前の駅、万座鹿沢口だった。
蕨までの定期券で行けるわけもないし、無人駅でもない。
確かに大雪もとい大吹雪だったけれど万座は新潟ではない。
あわよくば温泉になんて思っていたのだけれど、駅から出てすぐ温泉があるわけじゃない。
財布には500円ワンコイン。大吹雪が吹き荒ぶ山奥の駅。
制服の女子高生。
もちろんキセルでJRにがっつり捕まって、学校さぼったのが親にも先生にもバレて大目玉をくらった。
長い16年間の学生生活、学校に反省文を書いたのは、後にも先にもこのときだけだ。
「ほんっとバカだな~」
反省文とはいえ叱られたというより笑われた感のほうが大きい。
「なんで判らなかったのさ」
今ならわかる簡単な日本。
あのころは狭い世界の中、毎日恋に友情に青春に夢中だったから、何も知らなかった。

腹を空かした女子高生に肉まんをくれたJRさんに感謝して、少し反省しながら帰った。
山奥の吹雪が少しずつ止んでゆく。
やけにマジメに、これまでとこれからを考えた。
冬の群馬、吾妻線。

あれから吾妻線には何度も来ているし、念願の万座温泉にも行った。
もう見慣れた風景なのに、どこが懐かしく感じる車窓。
緑色広がる集落。
開け放したドアからトンボが飛込む。
拓けた盆地。
霞む上州三山と、さらに上をゆく雲の海。。
眩しい吾妻川の輝き。

春夏秋冬、この車窓が私の旅の原点だ。


今、やけにマジメに考えている。
これまでとこれから。
夏の群馬、吾妻線。

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