介護福祉は現場から 2007.02.22-2011.01.25

新しいブログにリンクしています。7つのテーマにわけました。引き続きお読みください。

第4157号 繰り返し読まれるべき魂の本

2011-01-23 19:24:21 | 福祉と人権
4154号(2011.01.22)では菊地雅洋『人を語らずして介護を語るな』(HHCS、2011年1月刊)について手短にご紹介しました。その後、一読したので感想を書きます。


もともと本書は、「masaの介護福祉情報裏板」というブログに収められた膨大な記事を1冊の本にまとめています。ですから、それだけで凝縮された内容なので、こうして短い感想を書くことすらはばかられますが、あえて挑戦しています。

上記のブログ記事でも、本書の構想やタイトルなど準備段階での様子が書かれていました。

いま、出来上がった253ページの本書をみると、著者のプレゼンテーションは6つの章ごとに従うと、次のようなテーマを含んでいます。第1章と第6章は書き下ろし。

第1章 原題は、「介護と福祉に迫りくる危機」です。
現在、介護保険法の2012年改正の提案が進行中です。かねてからmasa氏はブログ上で今回の改正の問題を警告されてきたのですが、進展中の予想以上の無思想(財政論という思想)な内容と現場の意見に耳を貸さない強硬な行政側の進め方に驚いている読者は菊地氏の分析に共感を持たれるでしょう。まさしく政府案の作業が進んでいくいま本書が刊行されたことの意味があります。初代の社会保障制度審議会の会長を務めた大内兵衛の言葉をまねれば、「時代はそのときの思想を生む」のです。「迫りくる危機」にはどのような思想と姿勢で臨むべきなのか、masa氏のブログの特色である歯切れのいい表現で厚生労働省や関係審議会の委員の諸先生、介護関連の専門職組織を糾弾しています。

第2章 原題は、「介護にかける熱意はあるか」は、
ソーシャルワーカーや介護福祉士など介護にかかわる専門職の心構えとか技術について警鐘を鳴らしています。
QOD: Quality of death (死の質)p.60というテーマは、第4章に引き継がれます。
「療法」は、治療効果よりは、心のキャッチボールのための道具としての機能面に着目して取り入れる方が認知症の予防には、よほど現実的だ。p.74

第3章 「介護の世界の裏側にあるもの」では、
 第2章で介護福祉士の医療行為を例に考察されたテーマ(p.33)が発展されて、社会福祉士や介護福祉士という国家資格者への批判となっています。

「介護の社会化は建前だったのか?」
「介護保険は社会福祉ではないという詭弁を斬る」

では、介護保険制度の創設のいきさつや費用の半分を(社会保険料ではなく)公費によっている実態を踏まえて、「社会保険だから」という大義名分を持ち出しての給付制限を批判している。

ドイツの介護保険の場合は、介護保険の社会保険としての側面を明確にしているが、反面日本に比べると介護保障としての介護扶助の権利性を明確にしています。

これは、別論で検討したいのですが、すでに老後の介護にとって欠かせない制度となっている以上、細かな行政論で制度をいじるのではなく、本質的には「介護保障法」として制度の基本を再構築・刷新する時期にきているのでは?と痛感させられます。

第4章 「最後の日々に寄り添って」では、
 いずれも、実例を取りあげて、現在の介護問題の本質をついています。
3番目の「穢土荘厳」で取りあげらた福井県の老夫婦の焼身自殺のことは、私も当時、介護福祉コース1年生の講義でとりあげたことがあります。
5番目の「見捨て死の現状」は、masa氏のブログへのコメントからの実話です。
8番目の「最後の晩餐に関する対立」には、「介護歳時記」の「栄養士の役割」を合わせお読みください。本書を読んで泣きそうになる個所は多いのですが、この個所では、肉を食べない方のその理由を栄養士が聞いて納得するという話があって、泣かされます。同時に、菊地氏のやさしさ、教育者でもある側面を見ました。p.203

第5章 「今生きている現実と社会」では、

・人と社会の接続の援助としての社会福祉援助 p.215
・(年金記録問題)過去を金で買い戻すことはできない p.219
・国の理想論が結果としてもたらすこと p.220
などの例から、介護問題の底流にある日本社会の病弊に及んでいます。

第6章「天のない介護サービス」は、書き下ろしですが、
「毎日毎日、登るところができる坂道がある仕事というのは実にやりがいのある仕事ではないだろうか。」p.251

そして、「我々が競争する相手は、他人ではなく、昨日までの自分である。」p.253と全編を結んでいます。


*図は、菊地氏が施設長を務める緑風園のアクセス。同園サイトから。
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2 コメント

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Unknown (masa)
2011-01-24 13:25:23
過分なご評価をいただき心より感謝申し上げます。この記事と、前回の記事について、本日の更新記事「人を語り、介護を語ろう」
http://blog.livedoor.jp/masahero3/archives/51664565.html

↑こちらにリンクを張らせていただきました。
今朝続編を (bonn1979)
2011-01-24 13:57:02
masaさん

貴ブログの
今日の記事で
多くの方が
ブログで御書を紹介されていることを
知りました。

8冊を
購入されている人も
いましたね。

今朝書いた
拙記事(第4158号)も
続編というべきです。

ブログの読者の意見・コメントを
反映されて世に出た
という意味でも
新しい時代を
切り拓いたといえます。

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