すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【タイ戦プレイバック】「予選は結果がすべて」じゃなかったのか?

2017-03-30 07:37:51 | サッカー日本代表
批判が噴出した「4-0の大勝利」

 さて今回のお題は「人によって意見が違う」ので、あえて「私は」と一人称を多用して書こう。

 今節、サッカージャーナリストのみなさんが書いているタイ戦の戦評には、どうも違和感を覚えた。論点はザックリ3つある。厳密には2つに大別できるが、片方が2つに枝分かれするのでまあ3つだ(ややこしいなぁ)。

 まず第一は「予選は結果がすべて」論についてだ。日本のサッカージャーナリストは確か「結果がすべて」論者がほとんどだったはずである。

 だがなぜかタイ戦での4-0の勝利を喜ぶ声がない。「内容を問う声」がほとんどだ。どうも矛盾している。ダブルスタンダードだ。むしろ逆にふだんから「予選といえど結果だけでなく内容も求めたい」と余計なことを言って叩かれる(笑)私のような人間がタイ戦を見て「すごい決定力だった」などと褒めているのだから笑える。

 ただこの点に関しては、それだけ内容が悪かったんだからまあしかたない。ここをあんまり掘っても生産的じゃない。次の論点に行こう。

ロングフィードは是か非か?

 もうひとつ、なかなか結論が出ない永遠のテーマなのがロングフィード是非論だ。ここでハリルジャパンに対する評価が大きく分かれる。

 例えば同じタイ戦を見ているのに、「ロングボールばかりじゃないか」という人が多い。ところが私の目には逆にバックラインでボールを回したり、横や縦にショートパスをつなごうとしてはカットされるシーンが目についた。同じ試合を見ているのにこれだけ見方が違うのだ。

 もちろんザックジャパンとくらべれば現代表はロングフィードが多くなったが、私はタイ戦を見て「多すぎる」とは思わない。なぜなら、それは相手のやり方に合わせる必要があったからだ。

 どういう意味か?

 私がタイ戦でロングフィード支持を唱えた理由はふたつある。ひとつは相手が前からプレスをかけてきていたこと。もうひとつは日本のボランチ・コンビの機能不全だ。

 私としては、タイ戦のように相手が前からプレッシングしてくる試合ではロングフィードはアリだと思う。相手の陣形を縦に伸ばせるからだ。これで敵が全体に引いてくれれば、今度は相手が前からプレスをかけられなくなる。つまりタイがやりたいフォアプレッシャーを回避することができる。かつ、ロングボールで相手を下がらせれば、逆に日本の低い位置にスペースができるので後ろからビルドアップしやすくなる。

状況に応じてプレイすべきだ

 サッカーはなんでもそうだ。ケースバイケースである。

「何でもかんでもロングフィード」「何でもかんでもショートパス」「相手がどんなやり方をしてこようが『自分』を変えない」。そうじゃなく、相手の手に合わせて柔軟に戦うのが賢いと「私は」考える(もちろんここでも考えは分かれるだろう)。

 とはいえ目を瞑ってアバウトなロングボールをなんとなく前へ蹴り込み、前線の選手がヘディングで競ってこぼれ球をひろう、みたいなサッカーは私もよしとしない。だがCBの吉田と森重は非常に正確なロングボールをピンポイントで蹴れるのだ。「放り込み」ではなく、前線の選手の足元にピタリとパスを付けることができる。なら使わないテはないだろう、と私は思う。

 ここで議論がまっぷたつに分かれる。「日本の持ち味はショートパスをつなぐパスサッカーだ」という論者には、ロングフィード肯定論は受け入れられない。なかには相手がどんなやり方をしてこようが「美しいパスサッカー」をすべきだ、と考えている人もいる。で、ハリルジャパンを否定する。

 いやもちろん私だって、勝てるならどんなスタイルだっていい。だが相手のやり方に関係なく「常にショートパス&ポゼッション」では日本は世界で勝てないことが、ザックジャパンで実証されたと私は考えるのでそっちの論には組しない。あくまでケースバイケース(相手のやり方次第)であるべきだ。

あの急造コンビでボランチ経由の組み立ては無理だ

 さてもうひとつ、タイ戦でのロングフィード肯定論が枝分かれしたほうの問題についてだ。

 UAE、タイと続いた今回の連戦では、長谷部がケガで欠場した。彼は日本でいちばん替えのきかない選手である。どうも日本では長谷部の評価が異様に低いように感じるが、私は彼をいつも感心して見ている。長谷部の全体のバランスを取るポジショニングと正確なロングフィードは(特に前者は)マネできる選手がいない。

 例えばコンビを組む山口蛍は長谷部が下がりバランスを取ってくれるからこそ、何も考えずにゾーンを無視してピューッと前へ出て人に食いつけるのだ。

 だがその長谷部は今回いない。そのため今野が招集されたが(厳密には彼は長谷部の代役[=アンカー的プレイヤー]ではないが)、その今野もケガで欠場した。もう駒がいない状態だ。

 で、代表では左SBだが所属チームでボランチをやってる酒井(高)をスタメンにし、山口蛍とコンビを組んだ。この時点で、もうやる前から結果は想像できる。

 ぶっちゃけ、酒井(高)にはボランチの適性はない。彼はスピードに乗った飛び出しやオフ・ザ・ボールの動きに優れる。非常にアグレッシヴでいい選手だ。だが足元の技術があまりない。ゆえに自分がボールを持つとパニックになり、とたんにミスをしてしまう。つまり「使われるタイプ」の選手であり、「人を使うタイプ」の選手ではない。この点では山口蛍も同じだ(ただ彼のほうがまだ人を使えるが)。

 つまり大昔のディフェンス・ラインに例えれば、タイ戦ではストッパー・タイプのボランチが2人並んでいた。スイーパー・タイプ(アンカー)不在だ。そんなバランスの悪い急造ボランチコンビが機能しないのは、ちょっと考えれば分かる話である。実際、実戦でもデキが悪かった。

 だが私はアンカー的な駒が払底した状態で無理やり組まされた、あのコンビを批判するのは酷だと思った。ゆえにマッチレビューではあえてまったく触れなかった。と、やっとここでロングフィードに話が戻ってくる。

 今回のコンビがどちらも人を使うタイプじゃないのは前述の通りだ。つまりボランチを経由して組み立てができないなら、ビルドアップにはある程度目を瞑り後ろからのロングフィードを有効活用するしかない。で、私はタイ戦ではロングフィード肯定論を唱えた。だってそうするしかないじゃないか。

3つの課題は永遠のテーマか?

 図らずもタイ戦で露呈したこれらの問題点は、ハリルジャパンの急所である。

 ひとつはアンカー的にプレイできる長谷部の後継者がいないこと。才能的には遠藤航は代表で経験を積めばやれると思うが、ロシアW杯には間に合わない可能性が高い。なにより所属チームで違うポジションをやっているのが痛い。

 第二の論点は、ゲームメイカー的な機能を果たすボランチもいない点だ。

 私は柴崎岳に期待していたが(そして今も期待しているが)彼はハリル政権下ではもっとデュエルに長けなければ起用されないだろう。となると小林祐希かなぁと思うが、いかんせん彼はボランチの経験が浅い。個人的には本田がやるのがベストだと思っているのだが、本人には全くやる気がないようなので絵に描いた餅である。

 あとは青山とか比較的上の年代にいい選手はいるのだが、個人的には今の代表は世代交代が必要だと考えているのでボツだ。こう考えてくると結局ないものねだりになって結論が出ない。

 さて第三に、ハリルジャパンの特徴であるロングフィードを肯定するかどうかだ。

 これに関してはもはや宗教論に近い。「美しいパスサッカーこそ日本らしい」教の人にどう論理的に理屈をもって説得しても宗教ゆえにムダだろう。キリスト教徒にいきなり「イスラム教に改宗しろ」と言うのと同じだ。

 すなわちこのテーマに関しては「どっちが正しい、まちがっている」の問題ではなく価値観の違いであり、「その人がどんな人生を送りたいか?」の問題だから(謎)人によって必ず異論が噴出して結論は出ない。

「4-0で勝った。大勝だ」と喜びスルーしたって済むタイ戦ひとつとっても、これだけ論点が噴き出してくる。議論がつきない。そして残念ながら結論も出ない。

 さてあなたはどう考えますか?

 本当に「サッカーを考える」っておもしろいですねぇ。

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