投資一辺倒の中国経済は砂上の楼閣- ITmedia(2013年7月31日08時00分)
藤田正美の時事日想:
自公政権が安泰になって、安倍長期政権が見えてきた日本。第3の矢(成長戦略)がどうなるかに注目が集まっている。しかし、どうやら日本を取り巻く状況はむしろ厳しさを増しているようだ。
一番の問題は世界経済をリードしてきたBRICsである。中国が成長率目標を達成できそうにないことが明らかになってきたが、その他のインドやロシア、ブラジルも軒並み成長率が落ちている。インドは成長率は5%程度だがインフレ率が高い。ロシアやブラジルは2.5%前後とピーク時の半分以下だ。
ノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のポール・クルーグマン教授は、「中国は間違いなく危機的状況にある」とニューヨークタイムズに書いた。「中国モデルは万里の長城に衝突しようとしている。残された疑問はその衝突がどれくらい激しいか、だ」とも教授は言う。
『BARRON’S』という米国の投資雑誌には、「中国の煙感知器が鳴っている」というコラムが掲載された。筆者は、中国へ資金を投入している投資家は、煙感知器がなっても大丈夫だと考える誤りを冒していないかと警鐘を鳴らしている。
●投資一辺倒の中国経済は砂上の楼閣
クルーグマン教授の議論は、「投資一辺倒で成長してきた中国経済は限界に突き当たるはずだ」というものだ。日本などではGDPで最も大きな割合を占める(60%超)のは家計の消費である。米国では70%にも達する。しかし中国では国民の消費よりも投資のほうが大きく、GDPの半分を占める。
問題は、この投資が何に回っているのかということだ。最近、よく見かけるようになった中国のシャドーバンキング(参考記事)。高利で投資家(個人や国有企業など)を集めて、それを地方政府のインフラ整備に融資するという形をとる。高利というのは中国の銀行が預金者に付与できる最高の金利よりも高い金利ということだ 一方で、地方政府が行うインフラ整備は、そこから得られる利益が限られているのが特徴だ。地方政府はこれまで土地を収用し、集合住宅などをがんがん建設してきた。これによって、GDPが上乗せされるという部分もあった。しかし米国のサブプライムローンの破たんが住宅価格の値下がりに始まったように、地方政府のインフラ整備が遅れ、それによって地方政府の資金繰りがつかなくなると、個人や企業から集めた資金のうち銀行の正規ルート以外のルートで貸し出された資金が焦げ付く恐れがある。
そういったルートで貸し出された資金の残高を、中国政府は130兆円としたが、600兆円とする試算もある。600兆円というと中国のGDPを上回る金額だ。もしこの金額がいっせいに引き揚げられたりすれば、デトロイトではないが、中国の地方政府自体が破産状態になってもおかしくない。
●中国進出企業以外の日本企業にも痛手
そうなったら中国に進出している日本企業が大打撃を受けるのは当然だが、日本にいる企業も深手を負うことになる。現在、日中の貿易総額は30兆円を超えるほど。日本の総貿易額は130兆円を超えるくらいだから、ざっと4分の1は中国関連ということになる。そこの経済が大打撃を受けて成長率が急減すれば、日本から出て行く資本財などが激減しかねないからだ。
もちろん中国の影響力が大きいASEAN各国の成長率にも響くだろう。日本は、中国への対抗という意味もあってASEANとの関係を深めつつある。ASEANがアジアの成長センターになるということは、世界の金融機関が認めていることだ。その意味では日本が接近するのは悪くはないが、ASEAN諸国が「中国ショック」に巻き込まれたりすると、けっこうややこしいことになる可能性もある。。
中国経済が暗礁に乗り上げたときに気になることが3つある。最近頻発しているとされる「騒乱事件」が社会問題に発展しかねないこと。2つ目は学生が就職できないというような事態が長く続くと、これまで順調に発展してきた沿海地域でも社会不安となりかねないということ。そして内部に問題を抱えた政府が、外部の問題に国民の耳目を引きつけるというようなことをやらないかどうかということだ。
尖閣問題で中国政府が手を緩める姿勢をまったく見せないのは、国民の耳目を集めておくという意味で正解なのかもしれない。しかしそれが正解であれ、不正解であれ、北京政府が現状の深刻度をどれほど理解しているか。いちばん分からないのはそこだ。そこが分からないと、いざというときには、日本は不意打ちを食らうことになる。安倍首相にとっては、どうしようもないリスクということになるだろうか。
○尖閣問題で米上院が決議採択 「緊張高めた」と中国批判- 朝日新聞デジタル(2013年7月31日10時46分)
【ワシントン=大島隆】米上院は29日、尖閣諸島を巡る日中対立や南シナ海の領有権問題で平和的解決を求める決議を採択し、中国軍艦が自衛隊の護衛艦にレーダーを照射したことなどを「緊張を高めた」と批判した。
決議は、中国軍艦のレーダー照射や今年4月に中国の海洋監視船8隻が領海内に侵入したことを挙げて「緊張をさらに高めた」と批判。「中国が領海基線を不適切に設定するなど、一方的な措置を取った」とも指摘した。尖閣諸島は日本の施政下にあり、日米安保条約が適用されるとの米政府の立場を改めて明記。あらゆる関係国に、地域の安定を損なうような活動を自制するよう求めた。○