
しかし、「使えるTV」を使う人は最初はいなかった。14年間テレビの現場にいた私の主張する「テレビを使う」ということは一般的にはまだまだピンと来る話ではなかったからだ。ズームイン!!朝!や24時間TVを制作している私の姿をご存知の方々は「そんなの素人には無理だ」と手を出せない状態だった。そこで私はまず自分が2時間の番組を思う存分使い切る事をはじめた。画用紙に手書きで作ったフリップをもって、知り合いのケーキ屋さんの2階を借りて一人で「私はなぜテレビ局を辞めてこんなことを始めたか」「住民の住民による住民のためのテレビ」を皆さんと作りたい・・・、などなど。
この1回目の番組を見た知り合いが安心した。「なあーんだ、あんなんでいいのか?」ということだった。そうズームでも24時間でもなく、手持ちのカメラで自らを語る。映像だって自分の顔を映す以外には工夫も何もない。普通ならこんな一人ごとは面白くない!といわれてしまうのだが、逆の発想だった。自分で言うのも恐縮だが14年間ニュース、ドキュメンタリー、歌番組、ドラマ、クイズ番組、お笑い、バラエティーなどほとんどのジャンルの番組を作ってきた。全国放送も山ほどやってきた。日本テレビの大御所や当時の日テレ3羽ガラスといわれていた大プロデューサーや大ディレクターとも数多くの番組でご一緒させてもらった。中には無理やり熊本まで来てもらった番組もある。当時は結構強引だった(今も??)あらゆるジャンルの番組を作ってきたからこそ、一筆書きや一発芸のような瞬間瞬間でやりきってしまう表現のインパクトや面白味、格闘技のような一瞬の勝負の醍醐味が楽しかった。
美術で言うとたとえば「へたうま」、一気に書き上げる子どもの絵、アラーキーさんのようなカメラはインスタントカメラだけど女性との瞬間の出会い、一瞬のシャッターチャンスを逃がさない写真のようなものだ。この旬の瞬間をテレビという魔法の箱の中で上手に使う手を考えてきた。基本は人間だ。人と人の出会い、付き合いがそのまま映像になる。私は最近住民ディレクターの活動の原点は「お付き合いテレビ」だと話している。手法やノウハウ、技法をいくら覚えても地域の人たちや一緒に動く人たちと互角の状態できちっとお付き合いできないと人肌の温もりは出ない。
行政マンやコンサルタントを仕事にしているとこのあたりが難しい。どうしても教える立場、応援する立場、指導する立場になっていく。小学校の学級委員長のような感覚で住民指導が始まる。はっきり言ってこんな感覚では住民のことは全く理解できない。応援するにしても同じ土俵に互角で、素手で、一人の人間として、付き合いができないと住民の視点は共有できない。私が14年間のテレビ局生活で、農林水産業の方々からもっとも鍛えられたのが「ここ」だ。山江村の農協のボスは元関取だったが、その彼と本気で相撲をとった。一瞬の差で板間に投げ出され負けはしたが、にらみを効かそうとしていたボスもその日から態度ががらっと変わった。もちろんその上で自分の役割を果たすことが求められる。行政マンはやはりその道には明るいのだから得意技を惜しげもなく発揮してもらえればよい、
私の小中学校時代は下町っぽい地域だったので、クラスには本当にいろんな人がいた。東大や京大に行くいわゆる秀才タイプから実業肌で高校を卒業すると即、父上の中小企業を継ぐ人、同じく高校を出て市役所に入る人、土方仕事をはじめ、たまに町で会うと大人びた素振りがとてもまぶしく見えたりした人もいた。当時は銭湯に通っていたので毎日背中には色とりどりの彫り物を目の当たりにした。銭湯では普通の光景だった。つい最近、故郷の「スーパー銭湯」といわれる大きな公衆浴場で久しぶりにそのような光景を目にして懐かしがって見入っていたら、学生バイトのような男から「彫り物お断り」なので浴場を出るように注意されていた。これはやばいと思っていたら意外や意外!?彫り物の男性はぶつぶつ言いながらも出て行った。時代は変わったものだ・・・。昔なら考えられない光景だった。そういう人たちも毎日一緒に湯船につかり、時には背中を洗わされたものだ。怖いという感じよりは、子どもながらに粋を感じていた。みんな意外とやさしいおっちゃんだったのだ。
話を戻そう。地域にはいろんな人が混在している。同級生がそうだったようにみんなが大学を出たわけでもなし、大学を出ても就職戦線から全く外れて身体ひとつで勝負する人もいる。中学を出て立派に起業した同級生もいて私には彼は子どもの頃から羨望の的だった。世間をよく知っていた。
改めてエリートが問題だと思う。幼稚園、小学校の頃からすでに自分と同じような進学する子どもしかいなかった人たち。周囲にはずっと同じような人間ばかりがいたので世間からするとごく一部なのに、誰をも自分らと同じような人間としてしか発想できない人たち。背中の彫り物はきっと映画でしか見たことがないのではないかと思う。機械の油が手に染みいったゴツゴツした手で入れてくれるインスタントコーヒーの味を知らない人たち。どうもこの人たちが、地域をマーケットにして自分たちの幸福を追求しているのではないか??
勿論全部が全部ではないのは当然だが、そういう人たちにぜひ一度「押せば映る」といっているビデオカメラを手にして、自分のことを見つめてもらいたい。地域の人と一度とことん付き合ってもらいたい。今日取材してくれた研究所の女性は、興味深々で帰り間際、とうとうカメラを触り始めた。こういう人は信頼できるので好きだ。
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