「軍師官兵衛」では現在の伊丹の有岡城に1年間という幽閉を余儀なくされた官兵衛でしたが、栗山善助、井上九郎右衛門、母里太兵衛の家臣3人を中心に一切の揺らぎもなくひたすら官兵衛救出に賭けた黒田家中の結束力は「信頼」という一言が全てでした。
そして官兵衛は牢獄のかすかな開き窓から藤の花の美しさを見つけ、生きる希望を取り戻しました。奇しくもこの1、2週間は藤の花が最も美しい時でした。官兵衛ほどの劣悪な状況の牢獄ではなかったにせよ野山獄や自宅での長い幽閉生活が続いた松陰への家族や松下村塾の塾生たちの信頼は一旦揺らぎはしましたが、死をもって志を貫いた松陰の意志は揺らぎを超えて塾生にとどまらず幕末の多くの志士に伝播していき、ついには新しい夜明けを導きました。井伊大老でさえ実はその同志であったと思わせるほどの幕末・維新の大叙事詩がこの日本で繰り広げられました。
そして信長、秀吉、家康のもとで働いた官兵衛、松陰の周辺で働いた文や小田村伊之助、塾生たち、・・・、武士だけではなく医者や魚屋さん、おんなたちもねじり鉢巻をして一致団結して事に当たった時代がありました。遂には「草莽崛起(そうもうくっき)」という難しい言葉で表現された「ふつうの在野の有志」、今でいうと「ごく普通の暮らしをしている民間人の志をもった老若男女全員」が立ち上がり世の中を変えていくことの必要性を松陰は唱えていました。
あれから160年あまり経ちその時代の到来を感じさせる風がじわりじわりと吹いて来ています。わたしたちは何かと批判の多い大河ドラマを追走しつつ官兵衛と松陰、その周りで生きた人たちに2年続きで学んでいます。ドラマはフィクションと再々話してきましたが、そのフィクションから伝わる人の生き方や人としてのあり方は十分すぎるほど学べる機会になっています。官兵衛の大義や松陰の志をごく普通のわたしたちがごくありきたりの日常に活かせる時代にいます。官兵衛、松陰が生きた時代には当然ですが電話もメールもありません、どうやって官兵衛が生きてること、松陰が志を曲げていないことが伝わっていったのでしょう?信長は官兵衛を疑い、長男の長政を殺せと命じました。しかし、竹中半兵衛らが守りました。この半兵衛の決断は官兵衛が裏切ってなかったことを後に知った信長を救うことにもなりました。「信頼」という二文字が全てを決定付けました。
これら官兵衛、半兵衛、松陰の生きた歴史が今につながっていることを自分自身で気づくことが一人一人の本当の歴史でしょう。その一人一人の人間に中心を置いた人間歴史の集大成が歴史絵巻といわれる大河ドラマに通じる大叙事詩になっていると感じます。大河ドラマを見ることは毎週、「あなたの志は何ですか?」と松陰先生に問われることになっています。この面倒しいことに正面切って当たるならきっと大河ドラマはとても面白くためになるドラマとしてあなた自身の裡に蘇るでしょう。
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