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岸本晃の住民プロデューサーNEWS

山笠からドストエフスキー、「主体性論」へ

 福岡に入った。空港に大きな山笠が飾ってあった。山笠は鎌倉時代の頃、疫病を封じるために行われたものらしい。また夜にNHK教育でロシアの文豪ドストエフスキーのカラマーゾフの兄弟が今日本でも売れている背景を放送していた。こちらは悪霊の存在が絡む。カラマーゾフの兄弟は学生時代に批評家小林秀雄さんの作品に頻繁に出てきていたので、随分苦労して読んだ。ちょうど身近に文学青年がいたので同じく彼も読んでいて、独自の解釈を聞きながら読み進め、非常に面白く読んだ小説だった。そういえば、その文学青年は福岡出身の先輩だった。
 ドストエフスキーは洞察力があり小説は奥深く、特に小林秀雄は「ドストエフスキーの生活」という作品で作家の私生活についても鋭く迫っていた。小林秀雄に関しては実は大学時代に卒論を書くことになってしまった。もう一人が山口出身の詩人中原中也だ。かといって私は文学部ではない。一応社会学に在籍していた。しかし前にもどこかで書いたが、わが山本教授は「授業は来なくてもいい。俺が主催するコンパにだけは出て来い。それで単位はやる。」という猛者だったので私はそのまま実践した。実際それで卒業させてもらった一人だ。ところで社会学なのになぜ小林秀雄と中原中也だったかというと、この二人を通して人間の主体性とは何だろう?という疑問を感じ、それを書いたのだった。
 小林秀雄という人は小説家になりたくて文学の道に入ったが、自分にはその素質は無いことがわかり、いつしかあきらめたが、とうとう批評家というジャンルを見出し、あくまで文学者としての道を歩いた人だ。・・・これは完全に私のオリジナルな分析だ。一方、中原中也は生まれつき詩人だった。天性の詩人だから詩を書き、詩人として生きてしまう。この二人は東京で出会い、友人でありながらも恋仇(かたき)、文学者仲間・・・、として不思議な関係を続ける。(この後は省略します)
 実は私の興味は小林秀雄にあった。文学を志し、追求する中で自らに文学の素質が無いと知り、それでも批評家として生きる生き方に疑問を感じていた。主体性が無いと見えたのだった。なぜなら、天性の詩人中原中也と文学論を戦わすと必ず負ける。相手は根っからの文学者だからだ。小林さんは批評とは他人(ひと)の作品を通して己の夢を懐疑的に語ることだという。この文章を最初に読んだ時は淋しい人だと思った。そこまでして文学者にこだわる必要があるのか?この言葉の裏には自分で小説を書いてみたが、数本しか書けなかった小林さんの現実があった。そこで方向転換して批評なる仕事に邁進したのだ。(ここも私のオリジナル小林秀雄分析)
 さて、私が何で小林さんの生き方にここまでこだわったかというと全く同じような経験を学生時代にしていたからだ。ドストエフスキーの小説で紹介した件(くだん)の先輩がいたが、彼が私にはまさに中原中也だった。詩人というのは一言でいうと内発的な感性、感覚、動機、意志があって動いていた。数学で言うと演繹法だ。ところが批評家は他人の作品(生き方の表現)を通して己の夢を懐疑的に語る。この「懐疑的に語る」というところが響いた。つらく響いたのだった。結局、自信が持てない。なぜなら自らの生から発してないからだ。「他人の作品を通して」なのでどうしても見ている自分がいる。
 そこで小林秀雄は主体性があったのか?主体性の無い生き方、自分が優れていると感じる他人の生き方(作品)を追体験して文学者として生きる道を選んだ悲しい人に見えた。そこを徹底的に二人の作品と生活を調べて「主体性論」を書いたというわけだ。主体性とはなんだろう?この頃から、もっと言えば高校生時代に兵庫県を一歩でも遠く離れた土地で、知り合いが一人もいないところで一から生き始めたいと願い山口大学へ向かった自分の主体性の問題があった。そこに見事にオーバーラップする生き方として小林秀雄に出会い、中原中也、トルストイ、ドストエフスキー・・・とつながっていった。
 主体性は内発的なものであることは間違いないが、多くの人格が内在化する人間という存在の不思議に出会った学生時代であった。同時に研究室を捨て、世の中に、世間に探求に向かい続けた時代でもあった。文学と生活を追いかけることが、実は今に連なっている。これは今、IT業界でよくいわれる「バーチャルとリアル」かもしれない。

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