クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

耕一物語ー闇舟生活

2014-08-25 23:21:43 | 日記

生麦沖で愛友丸に積まれた進駐軍闇物資は、静岡の焼津で降ろされた。

そして、その後の愛友丸の航海は至って順調であった。

北は北海道の函館や釧路あたりまで行った。北海道へは進駐軍の横流し物資を運び、帰りは北洋の海産物で船倉は一杯になった。

東北の塩釜、釜石、気仙沼あたりでは主に闇米を積み、降ろすのは生麦や追浜(三浦半島)など東京に近い港であった。

耕一は愛友丸の仕事を一生懸命やったので、機関長に信頼され、健さんや他の仲間にも可愛がられた。

やがて、一航海が終わるたびに機関長から給料を貰うようになった。

その給料の札束は、耕一が仕事に慣れるにつれ、次第に厚くなって行った。

半年後には、普通の勤め人がもらう給料の10倍以上の額を貰うまでになった。

「こんなにもらって良いのだろうか・・・・・」

最初、耕一は少し不安になったが、そんな気持ちは次第に消え、財布の中に札束が沢山入っているのが当たり前になって行った。

 

 

そんな耕一であったが、夜になると明子とのあの夜のことを思い出した。会うのが待ち遠しくてしかたがなかった。船がどこかの港に着くたびに、その想いを手紙に書いて明子に送った。

たくさんのお土産を抱えて耕一が明子を訪ねて行くと、彼女はいつも耕一の好物の茶碗蒸しや肉じゃがを作って待っていてくれた。そして一緒に風呂に入り、お互いの身体を洗いあった。

だが、二人の甘い夜はいつもあっという間に過ぎ、次の港へと愛好丸は慌しく出航した。

 

しかし、横浜に近い生麦や追浜に寄航した時は、船長は、4、5日そこで船を停泊させることがあった。

船長は横浜に家族が住んでいたので、そこへ帰る必要があたのだ。

そんな時は、当直を船に残して、みんな陸(おか)に上がる。

そして、海の男達は船旅の疲れを癒すため横浜の歓楽街へ遊びに行った。

その当時、野毛山界隈には金持ちが遊ぶ花街が復活しつつあり、また真金町や黄金町地区には庶民が遊ぶ遊郭なども整備されつつあった。

愛友丸の男達は、札束で膨らんだ財布をポケットに入れて、意気揚々と横浜の花街へと繰り出して行ったのだった。

 

 

続く・・・・・・ 

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耕一物語ー焼け跡の倉庫

2014-08-25 09:04:26 | 日記

暗闇の生麦沖で愛友丸が揚げ荷作業を行っている頃、陸(おか)の焼け跡工場街を一台のトラックが走っていた。

暗闇の道をヘッドライトの二本の明かりが進んで行く。

廃墟の工場群跡を抜けたところで、トラックが停まった。

大きな倉庫が月明かりに浮かんで見えた。

倉庫の周囲は鉄条網の高い塀で囲まれている。

ゲートの前に停まったトラックのクラクションが、小さく3回鳴った。

しばらくすると、鉄条網のゲートが静かに開いた。

ゲートの内側に、MP(ミリタリーポリス)の制服を着た若い黒人の男がいた。

「ヘーイ、カムイン」

若い黒人が眠そうな声でそう言って、トラックを倉庫構内に入れた。

 

そこは進駐軍の物資保管倉庫であった。

破壊を免れた工場を接収して、GHQが倉庫として利用していたのだ。

その倉庫に、暗闇にまぎれてトラックを乗り入れ、物資を持ち出そうとしている。

その犯罪行為を、警備すべきMPがなんと手引きしている。

大胆不敵とはこういうことを言うのだろう。

進駐軍物資の横流しはそのようにして行われた。

 

 

 

愛友丸が生麦で積んだ次の荷物はそんな進駐軍の闇物資だった。

色んなものがあったが、缶入りの食料品が多かった。

牛肉、パイナップル、コーヒー、アイスクリーム用粉ミルク・・・・・・

チョコバーやタバコ などもあった。

当時の一般庶民が見ることもできなかったような物資が闇から闇へと横流しされていた。

そんな船荷を積んで、愛友丸はこんどは南の港へ向かうことになる。

 

 しかし、それにしても、これだけの闇物資を動かしている機関長の松さんという男は何者なのか・・・・・・。

いや、松さんがそれを動かしているわけではない。それを仕切っている連中は他にいる。浜の顔役達だ。松さんはその組織の一員にすぎない。

港の警備担当のMPを手なずけるのも、運搬するトラックを手配するのも、そして横流しした闇物資を隠匿管理するのも、全てその組織の連中がやることである。

戦後の大混乱の中で、それをやった連中が、巨万の財を成し、そして巨大な利権を握ることになった。

 

 

 

 続く・・・・・・

 

 

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