暗闇の生麦沖で愛友丸が揚げ荷作業を行っている頃、陸(おか)の焼け跡工場街を一台のトラックが走っていた。
暗闇の道をヘッドライトの二本の明かりが進んで行く。
廃墟の工場群跡を抜けたところで、トラックが停まった。
大きな倉庫が月明かりに浮かんで見えた。
倉庫の周囲は鉄条網の高い塀で囲まれている。
ゲートの前に停まったトラックのクラクションが、小さく3回鳴った。
しばらくすると、鉄条網のゲートが静かに開いた。
ゲートの内側に、MP(ミリタリーポリス)の制服を着た若い黒人の男がいた。
「ヘーイ、カムイン」
若い黒人が眠そうな声でそう言って、トラックを倉庫構内に入れた。
そこは進駐軍の物資保管倉庫であった。
破壊を免れた工場を接収して、GHQが倉庫として利用していたのだ。
その倉庫に、暗闇にまぎれてトラックを乗り入れ、物資を持ち出そうとしている。
その犯罪行為を、警備すべきMPがなんと手引きしている。
大胆不敵とはこういうことを言うのだろう。
進駐軍物資の横流しはそのようにして行われた。
愛友丸が生麦で積んだ次の荷物はそんな進駐軍の闇物資だった。
色んなものがあったが、缶入りの食料品が多かった。
牛肉、パイナップル、コーヒー、アイスクリーム用粉ミルク・・・・・・
チョコバーやタバコ などもあった。
当時の一般庶民が見ることもできなかったような物資が闇から闇へと横流しされていた。
そんな船荷を積んで、愛友丸はこんどは南の港へ向かうことになる。
しかし、それにしても、これだけの闇物資を動かしている機関長の松さんという男は何者なのか・・・・・・。
いや、松さんがそれを動かしているわけではない。それを仕切っている連中は他にいる。浜の顔役達だ。松さんはその組織の一員にすぎない。
港の警備担当のMPを手なずけるのも、運搬するトラックを手配するのも、そして横流しした闇物資を隠匿管理するのも、全てその組織の連中がやることである。
戦後の大混乱の中で、それをやった連中が、巨万の財を成し、そして巨大な利権を握ることになった。
続く・・・・・・
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