家の中も家の外と同じくらい暑い気はしエアコンをつけようとは思ったものの、現在の我が身にはとても贅沢なことに思われて、こうして煮られているのならいっそ焼かれてやろうと開き直って屋外へ出ることにした。
普通なら歩き始めは調子がいいものなのだけれど、早速息は苦しくなりその熱気に恐れ入りながら進んで行くと、天国への階段ではないな日の出階段とでも呼ぼうか、雲ひとつない青空へ続いている素敵な階段を一段々々上がっていった。そして一歩々々息も上がっていった。
息切れしつつ日の出階段を上り切ると何やら三名ほどの男が立ち話をしていた。ちらり見ればちらり見返された気にもなって、バカだなこのクソ暑い炎天下に散歩かよなんて思われたかもしれない。逆にこっちは何で日陰で集わないのだアホめなどとどうでもいいことをどうでもいい人たちに思い返してやった。
日の出階段上の男井戸端の向こうには森と言っては大げさな林がある。林の中に道はなく林の脇に道はありその道は丁度木陰となって続いている。ここが涼しい。いつでも風が通り抜ける。今日もこのクソ暑い日でもどこかひんやりとした風はやっぱり吹き付けた。こういう道を歩くのはとても正しい気はし楽しくもあり家になんか居るよりずっといい。そんなことを思いながら仮称涼風の道をてくてく歩いていった。
何やら楽しい涼風の道、蜘蛛の砦の多い辺りまで来ると、林の奥のほうにテントが張ってあるのが今日も見えた。屋外生活者のものと思われるがいつもあって、屋外生活者を見かけたことも何度かある。普通のおっさんにしか見えなかったが、ただ一つ他のおっさんとは異なったのはお前もこうなるぞと語るような目。それが嫌だったのでそのおっさんも嫌になったのだけれども、親しみを持てなくもなく弟子入りしようかと思ったことは三回あった。
おっさんちを背後に取り残し進んでゆくと木陰は減少していった。というより木陰はなくなり太陽の照りつける道となった。そうなるとあれでバカのように太陽を見上げて「お天道様こんちは」なんて太陽に語り掛けてしまうのだった。「今日は暑すぎやしませんか」なんてすっかり息苦しくなった道中お天道様とお話なんかまでして、ああもう俺は頭のおかしい淋しい人みたいだな!