ユング心理学研究会
1時間前 ·
2021年5月6日【第12回】ユングスタディ報告
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今回はテキストの第15回および第16回の最初部分を取り上げました。ここでは、改めてタイプ論における機能の問題が扱われます。機能間の移行の問題や、各機能のあり方の説明を通して、私たちが現実やイメージといかに向かい合っているのかが明らかにされていきます。
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まずユングは、意識の四機能を図の円の上に配置して、実際にはあり得ない、すべての機能を持つ理想的で完全な意識状態を表現します。そしてこの円の中心にある仮想上の核が、心における「自己」であるとします。
「自己」は意識的・無意識的プロセスの全体性もしくは総和のことです。私たちの自我にとっては、なにか重大なことはこの中心からやってくるかのように感じられます。またユングは、「自己」は心の中心であるともに、世界中に広がっているとも言えるとします。これは言葉の上ではあたかも矛盾しているように感じられますが、実際には、空間的に定位できない存在である心を具体的にイメージして理解する上で、様々な表現をしていくことは避け得ないのではないかと思います。
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各機能の間には、二つの機能が入り混じった未分化な機能状態があって、それを通して一つの機能から隣接する補助機能へ、さらには対になる機能へと移行することができます。その人の劣等機能へのアプローチはその人の補助機能を通じて行う、というユングの以前の指摘が思い起こされるところです。
ユングによれば、どの機能も主体に現実についての確信をもたらします。感覚からは静的現実、直観からは動的現実、思考からは静的イメージ、感情からは動的イメージが与えられますが、世界の現実には、実際にこれらの機能に相当する四つの側面があります。人は自分の最も強力な機能を用いて生を解釈しようとしますが、実際には一つの機能だけでは、主体を超えた世界を把握できません。ユングは自身の経験から、特定の機能のみを使って現実を解釈することで生のあり方を損ってしまった人の実例を挙げつつ、このことを説明していきます。
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今回は原文テキストの翻訳についての話題も多く出ました。みすず書房版と創元社版の二種類の邦訳の比較の中で、rational がそれぞれ「理性的」「合理的」、dynamic が「動的」「潜勢的」と訳されていることを確認し、その違いの意味について様々な意見が交わされました。