愛詩tel by shig

プロカメラマン、詩人、小説家
shig による
写真、詩、小説、エッセイ、料理、政治、経済etc..

紫陽花

2009年01月18日 22時24分49秒 | 

「紫陽花の花って大きいわよね。手まりみたい」

陽子は大振りの傘を斜めにして花の前で座り込んでいる。

「違うと思うな。一つ一つの花が重なって咲いているんだ」

「あら、花に詳しいのね」

陽子は嫌みを言う。
僕だって自信はない。
けれどこの紫陽花寺の紫陽花は、とんでもなく広い範囲で咲いている。

「有り難う、連れてきてくれて。それも二年続けて」

それは去年彼女に約束させられたことだ。
僕は約束は守る。

「ねえ、ここの紫陽花の手まり、いくつ有るのかしら」

「さあ、お寺の人に聞いてみたら?」

「そんなのつまんない。自分で数えましょうよ。
ここからあなたは向こう側へ、私は逆向きに」

やれやれ、思いつきでいつも行動するんだから。
僕は数え始めた。彼女もまた。

しばらくすると、陽子の姿が見えなくなった。
もしやと思い、僕はバス停に駆けていった。
はたして、陽子はいた。

「どういうつもりなんだ」

「紫陽花に包まれて別れるのって良いなと思ったの」

「僕のどこがいけない?」

「あなたは優しすぎるわ。これじゃ、私、我が儘になって
あなた以外の人とやっていけなくなる」

「良いじゃないか僕の優しさはここの紫陽花の花以上にあるんだぜ。
僕が一生君の相手だ。不満かい?」

陽子は傘を放り投げて僕に抱きついてきた
柔らかな雨が僕たちを包み続けた

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