「いよいよ退院ですね」
窓のかすみ草を眺めていると、ナースの亜希子さんが声をかけてくれた。
僕の大好きなかすみそうのように、決して派手な女性ではない。
だけど、僕は彼女に惚れてしまっている。
「ねえ、もしもこのかすみ草が揺れたら、僕と付き合ってくれないかな?」
「私?こんなおばさん、それもバツ一よ」
「あなたしかいない。だから申し込んでいる」
「いいわ。風もない病室のかすみ草が揺れたらね」
僕らはかすみそうを見つめていた。
そのとき、揺れた。
確かにかすみ草がしかっりと揺れたのだ。
「やった!うそみたいだ!」
亜希子さんはただ、微笑んでいた。
時は流れ、小さな教会で結婚式をした。
彼女のベールを脱がすとき、亜希子さんは小さな声で言った。
「あのとき、かすみ草が揺れたのは、私が息を吹きかけたからよ」