西日本新聞より
2003年12月17日
食卓の向こう側・第1部<1>プロローグ こんな日常どう思いますか?
それぞれの家庭に、それぞれの食卓がある (写真は本文と関係ありません)
私たちの食生活は昭和三十年代を境に大きく変わりました。
肉、牛乳、パンなど洋風化が進み、インスタントラーメンといった手軽な食品も次々に誕生。
ファミリーレストランをはじめとする外食は、今や二十四時間オープンが珍しくありません。
お金さえ出せば、なんでも食べられる“豊かな食”の一方で、糖尿病などの生活習慣病は急増し、最近は若年層にも広がっています。
企画「食卓の向こう側」では、私たちの「食」が問いかけているものを探っていきます。
福岡市西部のマンションに住む内山良美(35)=仮名=は、会社員の夫(35)、小学六年生の長男と三人暮らし。共働きで「生活は人並みかな」。
× ×
十一月のある日。
「会議の資料づくりがある」夫は、午前七時に栄養ドリンクを飲んで出勤。
寝るのが遅かった長男は布団でぐずぐず、今日も朝食を食べずに登校した。
良美はトーストと牛乳で済ませ、職場へ。
「朝はあわただしいから、三人が食卓にそろうのはめったにない。一緒なのは日曜日ぐらい」(夫)
昼。
良美は会社近くの弁当屋ですき焼き弁当を購入。
夫はコンビニで空揚げ弁当とウーロン茶。
どちらも五百円から釣りが来た。
長男は給食。
「うちよりおいしいし、みんなと食べるのが楽しい」
午後四時すぎに帰宅した長男は、カップラーメンを食べ、スポーツ飲料のペットボトルを手に、学習塾へ急いだ。
良美は、週一回のママさんバレーの練習日とあって、定時に職場を出ると、デパ地下で鶏の空揚げ、ポテトサラダ、きんぴらごぼうを選んだ。
六時に帰宅、買ってきた総菜をパックのまま食卓に並べ、練習場へ。
七時半、長男はジャーからごはんをよそい、一人で食事。
インスタントのスープに湯を注ぎ、テレビを見ながら、嫌いな野菜をよけて空揚げを食べた。
「お母さんがうるさく言わないから、一人の方が気が楽」
良美から「今日は食べてきて」と言われた夫は同僚と居酒屋へ。
枝豆、焼きナス、焼き鳥をつまみにビールを飲み、仕上げにラーメン。
十時に帰宅し、三人でスポーツニュースを見ながら、夫が買ってきたハンバーガーを食べた。
「ついハンバーガーショップに寄ってしまう」(夫)
× ×
日曜日の夜はたいがい家族で外食する。
良美が今週、夕食で台所に立ったのは三日。
炒(いた)めものや長男が喜ぶ焼きそばを手早く料理、冷凍食品を“チン”して添えた。
残業があった二日は、総菜を買った。
「夫は掃除、洗濯を手伝う人ではないから、家事はすべて私の負担。料理にかける時間はできるだけ省きたい」のが本音だ。
良美は、夜中に突然息が苦しくなり、あわてて夫が病院に運んだことがある。
過呼吸症候群。
「原因はストレス」と医者に言われた。
時々、カラオケで気晴らしする。
夫は肥満気味で、会社の健康診断では「中性脂肪が多い」。
長男は今年二回、朝礼時に気分が悪くなった。
担任から「寝るのが遅れ、朝食が食べられない悪循環になっているのでは」と注意された。
「もう少し子どもにかまってやりたい」と良美は思う。
でも、家のローンは残っているし、長男の学資も必要だ。
「こんな時代だから、夫も自分もいつリストラされるか」分からない不安も。
このレールから外れるわけにはいかない…。
□ □
内山家の「食」の風景。
あなたは何を感じましたか。
私たちの食生活は昭和三十年代を境に大きく変わりました。
肉、牛乳、パンなど洋風化が進み、インスタントラーメンといった手軽な食品も次々に誕生。
ファミリーレストランをはじめとする外食は、今や二十四時間オープンが珍しくありません。
お金さえ出せば、なんでも食べられる“豊かな食”の一方で、糖尿病などの生活習慣病は急増し、最近は若年層にも広がっています。
企画「食卓の向こう側」では、私たちの「食」が問いかけているものを探っていきます。
× ×
■生活の充実感は家族だんらんがトップ
「2003年国民生活に関する世論調査」(内閣府)によると、生活の充実感を感じるのは「家族だんらんのとき」が最も多く43・3%。
また「日常生活で悩みや不安を抱えている人」は67・2%で、その内訳は「老後の生活設計」(50・0%)、「自分の健康」(46・3%)、「今後の収入・資産の見通し」(41・7%)、「家族の健康」(38・4%)の順だった。
(2003/12/17,西日本新聞朝刊)