西日本新聞より
2004年3月17日
食卓の向こう側・第2部 「命」つなぐために<1>もどき 安さの裏にあるものは
多様な食べ物があふれる中、私たちはどのような基準で選んでいるのでしょう。企画「食卓の向こう側 第二部」では、知ってそうで知らない「食」、そして体との関係、暮らしのありように迫ります。
コロッケ一個二十円。
「なんでこんな値段でできると?」。
福岡市内のスーパーの総菜コーナーで、主婦の副島智美(43)は驚きの声を上げた。
副島はパートで、きんぴらごぼうなど家庭料理を提供する総菜店で働く。
そこで作るコロッケはジャガイモをゆで、いためたタマネギ、ひき肉などを入れる手作り。
一個百三十円。
材料費や自分の時給を計算すると、ぎりぎりの値段だ。
「外国で作るから安いのか。どうやったら、この価格になるんだろ」。疑問が膨らむ。
× ×
「要望に合わせ、それなりの商品をつくる。それがプロの技」。
かつて食品添加物を扱う商社のトップセールスマンとして、さまざまな食品の開発に携わった安部司(52)=北九州市=は言う。
安部が明かすテクニック。
あるスーパーから特売用の肉団子(いわゆるミートボール)を頼まれたケースでは…。
普通のミンチは使えないから、牛の骨部分についている肉を削り取った端肉(はにく)をもとに、大豆たんぱく(人造肉)で増量し、欠ける風味は香料(フレーバー)で補う。
次に歯触りを滑らかにする加工でんぷんや油を加えるが、それと引き換えに失う粘りは結着剤でカバー。
油をなじませる乳化剤、色あせを防ぐ酸化防止剤、さらに着色料、保存料、肉エキス、うま味調味料…。
肉団子にからめるソースは氷酢酸やグルタミン酸ソーダなどで、ケチャップはトマトペーストや酸味料などでこしらえ、真空パックで加熱殺菌。
二十種以上の添加物を使い、子どもが喜ぶ味(軟らかくて味が濃く、三口でのみ込める)で、常温保存が利く商品に仕上げる。
× ×
「もちろん、まじめなメーカーもある。でも、あなたがコーヒーに入れた小カップのミルク。植物油に添加物を加えて白く乳化させたものかもしれません」と安部。
便利だが、どこか奇妙な「フェイク(もどき)食品」。
筒状のゆで卵、通称「ロングエッグ」も、その仲間。
輪切りすると、金太郎あめのようにどれも黄身と白身が均等。
ピザや、外食・中食の野菜サラダの付け合わせなど、「見栄えのいい」ゆで卵の中央部分だけが欲しい業者用に開発された。
生卵の黄身と白身を分離して加工。
学校給食でも、メニューに生野菜があったころはよく使われたという。
こうした食品は、消費者を喜ばせたいメーカーの思惑から生まれたのか、それとも消費者のニーズがメーカーを動かしたのか。
それはまさに、卵が先か鶏が先か、の関係のように見える。
「自分は業界と消費者の救いの神」と信じていた安部は、開発した肉団子を「おいしい」と食べるわが子の姿に衝撃を受けた。
「おれんとこのは食べるなよ」。
そう忠告する取引先の食品加工工場長と自分が同じことに気付き、会社を辞めた。
今、国産の自然塩を扱う傍ら、無添加食品を広める活動をしている安部は問いかける。
「なぜその値段でできるのか、なぜカット野菜の切り口は茶色くならないのか…。消費者が素朴な疑問を持たなければ、いい食品は生まれない」 (敬称略)
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多様な食べ物があふれる中、私たちはどのような基準で選んでいるのでしょう。
企画「食卓の向こう側 第二部」では、知ってそうで知らない「食」、そして体との関係、暮らしのありように迫ります。
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■食品添加物
食品衛生法では「食品の製造過程においてまたは食品の加工もしくは保存の目的で使用する」物質と定義。厚生労働大臣が安全性と有効性を判断して指定した「指定添加物」(345品目)や、天然添加物として使用実績が認められている「既存添加物」(489品目)、天然香料などがある。
(2003/03/17,西日本新聞朝刊)