BESTT!MESより転載
2020.10.26
2020.10.26
京大教授・藤井聡が「大阪都構想」の欺瞞を暴く!
ーーー転載開始ーーー
■最大の論点とは「行政サービスは上がるのか下がるのか」
大阪都構想の住民投票における最大の論点は、「行政サービスが上がるのか下がるのか?」という一点です。
推進派は例えば、次の様な派手派手しいポスターを使って「行政サービスが上がる!」と喧伝しています。
しかしこうしたポスターではその理由は明確に書かれていませんが、実態はその逆に、大阪市の解体を通して、行政サービスは「下がる」他ないというのが、一般的な客観分析結果なのです。
そのあたりの詳細は例えばこちらの記事でも論じましたが、
この記事で紹介した「大阪市の四分割に伴う行政サービスの下落」については、平成30年の大阪市役所の人事室もまた、全く同じ分析結果を導きだしています。
その分析の詳細は、下記の『特別区設置に係る「組織体制(部課別職員数)」に対する人事室意見』(平成30 年12 月6 日)という正式の行政文書(以下、「大阪市・人事室意見書」)で報告されています。
この記事では、この行政文書の内容を解説し、「大阪都構想によって大阪市を潰し、四つの独立した特別区を新たにつくり挙げることが、なぜ、行政サービスを引き下げることになるのか」というその、具体的なメカニズムについて、簡潔に解説したいと思います。
(1)大阪市廃止・四分割で、業務量が肥大化してしまう
当方はこれまで、「都構想」を実現して、(職員を増やさないままに)大阪市を潰して四つの特別区をつくると、仕事量が「肥大化」してしまうので、これまで当たり前にやってきた行政サービスが出来なくなって、確実に行政サービスレベルが落ちるだろうと、繰り返し主張してきました。(参照:『都構想の真実』https://www.amazon.co.jp/dp/4899920725/)
例えば4人家族が一つの家で一緒に暮らしていた時に必要な「家事の総量」と、4人がバラバラに一人暮らしを始めたときの「家事の総量」を比べれば、バラバラな時の方が増えるのは当然です。
その一方で、今の都構想では、人員は増やさない、ということを決めています。ということは、人員が増えないのに仕事は増えるわけですから、都構想で行政は効率化するどころか、行政がさらに「非効率化」し、行政サービスが低下することは必至だと考えられるわけです。
以上は、当方の見解だったのですが、この見解と全く同じ事が、「大阪市・人事室意見書」にも明記されているのです。
まず、この文書の冒頭には、次の様な記述があります。
「4つの特別区に移行した際、分散化により職員数のスケールデメリットが大きく生じたり……するという恐れがある」
ここにスケールデメリットとは、スケールメリットの逆です。
そもそもスケールメリットとは、複数の組織を合併してスケールを大きくすると、行政が効率化するメリットが生じますよ、という話です。都構想はまさに、府と市が統合されるのでこうした効率化が生じるじゃ無いかという話なのですが、この「メカニズム」を踏まえると、一つの大きな行政であった大阪市を四分割すれば、それとは逆に、行政が非効率化するに決まっているじゃ無いかというのが、この文書が言う「スケールデメリット」です。
つまりこれは、大阪市を分割することで、行政が非効率化する恐れがありますよ、と主張しているわけです。そして、その結果として、この文書の最後には次の様に記載されているのです。
「特別区設置時点において、業務執行に必要な職員数が不足し、サービス水準の低下を来す恐れがある」
つまり都構想をやると、仕事が増えて職員不足が生じて、最終的にサービス水準が下がるのだ、ということが書かれているわけです。
(2)行政文書が明らかにする、行政サービスレベルが下がる項目
では、具体的にどういう行政サービスのレベルが下がるのでしょうか?
まずこの文書で、最初の分かり易い例としてあげられているのが、「市会事務局」。
これは、いわゆる「議会」の事務局ですが、そもそも今は、議会は大阪市議会一つしかないのですが、特別区が4つできると議会が4つも出来ることになるのです。
そうなると、トータルの事務量は(4倍とまで言わずとも)2倍や3倍にも膨れ上がることになります。しかし、職員はほとんど増やさないということになっており、その結果、十分な行政が出来なくなることは必至。この問題について、この文書では次の様に書かれています。
「副首都推進局作成資料によると、市会事務局の現員数36 人に対し、第一区10 人、第二区11 人、第三区11 人、第四区10 人の計42 人となっているが、この人数では業務執行に支障を来す恐れがあると考えられる。」
つまり人事室は、普通に考えれば、これまで36人で対応してきた議会対応をたった10人そこらで対応できる筈はないのではないか、と主張しているわけです。
同じことが「総務部」に関しても起こるだろうと人事室は主張しています。
「副首都推進局作成資料によると、総務局行政部の現員数68 人に対し、第一区18 人、第二区21 人、第三区22 人、第四区19 人の計80 人となっているが、この人数では業務執行に支障を来す恐れがあると考えられる。」
この文書ではこうした分析を様々な行政項目について行い、少なくとも次の各項目の行政執行に「支障」が生じ、その結果、行政せービスが「下落」してしまう危惧が存在するということを警告しています。
・市民局ダイバーシティ推進室
・都市整備局公共建築部
・教育委員会事務局総務部施設整備課
・福祉局生活福祉部保険年金課
・公営住宅
・土地区画整理事業 等
すなわち、「都市整備」や「教育」「福祉」など、大阪市民の暮らしに直結する様々な行政サービスが、都構想をやることで「下落」してしまうことを、この文書は警告しているのです。
(3)大阪市四分割による、専門家不足による行政能力の下落
さらに、この文書では、次の様なことも書かれています。
「ノウハウを持った技術職員(建築、機械、電気職)を、特別区ごとに十分に確保することは困難と考えられる」
これは要するに、今なら、限られた少数の「技術職員」(つまりそれぞれの分野の「専門家」)が大阪市全体の行政の技術的な側面の対応を図っているのですが、役所が4分割されれば、全ての区にそうした技術職員を配置できなくなるということを意味しています。
つまり「うちの区には、建築の専門家が全然足りない」「うちの区には電気の専門家が全然足りない」等という様な事が起きてしまい、その結果、それぞれの区の行政レベルが下落してしまうことが危惧されるわけです。
だから本来なら、大阪市を四分割するなら、それぞれの区に、最低限の専門家を配置するくらいの「人員増強」が必要なのですが……そういう対応は図られず、その結果、行政サービスの劣化は、確実に生じてしまうわけです。
ちなみに、そうした「人員増強」を実際に行えば、各区で十分な専門家を配置することが可能となるでしょうし、同様に、以上に論じたあらゆる「人手不足」を解消することもできるでしょう。しかしそのためには、膨大な「人経費」の増加を覚悟せねばなりません。結果、抜本的な増税でもしない限り、別の行政サービスのために使われていた分を削らないといけなくなります。したがって、収入が増やさないままに四つの独立した特別区を新たにつくれば、行政サービスは劣化はどうやったって下がることになるわけです。
(4)「行政サービスの下落」リスクをしっかりとご認識下さい。
大阪都構想という大阪市廃止の構想には、実に多くの問題点が挙げられるのですが、ここで指摘したものはその内の一つに過ぎません。
しかし、この指摘は、極めて重要な論点です。
なぜなら、今、都構想に反対している方が、最も多く挙げている反対理由が「行政サービスに悪い影響がでそうだから」というものだからです。つまり、ここで紹介した行政文書は、今、都構想に反対している方々の最大の心配事は杞憂でも何でも無く、まさに正しい認識だったのだ、ということを行政的に明らかにしているものなのです。
・・・
言うまでも無く、都構想の是非を決めるのは大阪市民の方々です。ですが、少なくともここで紹介した「都構想をやれば、行政サービスが下落する」という深刻なリスクをしっかりと認識した上で、ご判断頂きたいと思います。
ーーー転載終了ーーー