愛詩tel by shig

プロカメラマン、詩人、小説家
shig による
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燭火礼拝

2009年01月24日 14時44分09秒 | 写真詩

照明が落とされていた。前から2列目、右側の席。
横には誰もいない。

しばらくして、女の子が目の前に置かれたキャンドルに火をともす。
どこから来るのか、風がキャンドルの炎を揺らす。
僕のこころも揺れる。

想い出が甦る。

ちょうど1年前。由香と知り合ってまだ1ヶ月だった。

「クリスマスイヴはレストランを予約しなきゃね」

「何言ってるの。イヴは教会で過ごすのが王道よ」

僕にとって初めての教会。
受付で賛美歌が印刷された小さな冊子を受け取った。

由香は僕を席にエスコートした。前から2列目、右側の席。

キャンドルに火がともされた。
静寂を破ったのは牧師の声だった。
オルガンが鳴り響き、座ったまま、何曲か賛美歌を歌った。
牧師の短いスピーチがあり、やがて燭火礼拝は終わりを告げた。

キャンドルが消された。
その間、僕らは何一つ言葉を交わさなかった。

外は冷気で研ぎ澄まされた空間だった。
満点の星を、真白い十字架が切り抜いていた。



振り返ると、由香は目に涙を一杯たたえていた。

「どうしたの?」
「ううん、何でもないわ。ここで帰るね」

由香は駆け足で街角を曲がり、姿を消した。
一人取り残された僕は、呆然とした。

2日後、由香から手紙が届いた。

「ごめんなさい。前の彼と別れたばかりで、寂しさを紛らわすために、あなたと会ってた。
まだ、忘れられないの。これ以上、自分を偽るわけにいかない。本当にごめんなさい」

始まったばかりの恋は、あっという間に終わりを告げた。


回想をオルガンが断ち切った。
そのとき、右横に誰かが座った。由香だった。
キャンドルの光に照らされた瞳が、きらきらと光っていた。
綺麗だ、と思った。

礼拝が終わり、教会堂の外へ出た。いつのまにか雪が降っていた。

「メリークリスマス」由香は明るく言った。

「この1年、どうしてたの?」僕は聞かないわけにいかなかった。

「少しずつ、あなたのこと、好きになっていったのよ」

「よく言うよ」

「本当よ、ほら」由香は赤い包みを差し出した。

包みを開くと、そこに現れたのは日記帳だった。
12/25から始まっていた。1ページ目に僕の名前が一つ、2ページ目に二つ、
そんな風に1日ずつページを追うごとに、僕の名前が増えていった。
12/24のページには、僕の名前がぎっしりと書いてあった。365個あるのだろう。

日記帳から目を上げると、雪に飾られた由香の黒髪が美しかった。
教会の屋根に架かった白い十字架にも、雪が積もっていた。


あの日、由香が消えていった街角を、今度は二人で曲がった。
雪はいつまでも降り続いた。まるで由香の日記帳に書かれた、僕の名前のように。

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