「私、自分の名前、嫌いだわ」
花は病室で、僕に言った。
「だって、儚いでしょう?名前通りに、儚く散っていくんだわ」
「何言ってるんだ。まだ望みはある」
「お見舞いに花、持ってきてくれなくてよかったわ。
枯れていくところを見ると、自分の命が残り少ないのを予感して、怖くなる。
拡張型心筋症だって。どうして私だけこんな病気になったの?
原因不明の病気で、心臓移植か、バチスタ手術とかいう、
難しい手術しかないなんて・・」
僕は何も言えなかった。
家に帰って、ライブラリから、過去撮ったポジフィルムをひっくり返した。
あった。
プロラボに持っていって、2L版に焼いてもらうよう依頼した。
2時間後に出来上がった。
僕はその写真をラボで買った写真立てに入れ、病院へ戻った。
「また、来てくれたの?私の命は長くないから、来てくれるのは嬉しいわ」
「プレゼントを持って来たんだ。花だよ」
「花?嫌だと言ったのに。でも、この薄い包みに花が入っているの?」
花は包みを開いた。
中から出てきた写真を見て、花はしばらく見つめていた。
「なんて言う花?実物を見てみたいわ」
「沖縄に咲いている。プリメリアだ。写真だから散ることはない。
写真には、癒す力があると、僕は信じている。君がこの病気を克服したら行こう」
「わあ、大きい木。プリメリアって、こんな木に咲くのね」
あれから3か月。
僕らは石垣島のリゾートホテルにいる。
花は信じられない回復を見せた。
主治医はひたすら首を傾げていた。
「信じられない。奇跡としか考えられない。何が起こったのか・・」
「彼がね、私の命をながらえるプレゼントをくれたの。
この花が見たくて、沖縄にいる自分をいつも思い描いていたんです」
「あなたの自然治癒力が高まったんですね。驚きました」
僕も信じられなかった。
写真家である僕は、自然の声を聞き、そこからくるメッセージに従って、
それらを写真に写し、永遠の命を与える。
今回の奇跡は、自然からの贈り物だったのかもしれない。
花が上着を取った。
水着の上に、大きくプリメリアをあしらったパレオを巻いて、笑っていた。
風が吹いて来て、プリメリアの木を揺らし、プリメリアの花を揺らした。