愛詩tel by shig

プロカメラマン、詩人、小説家
shig による
写真、詩、小説、エッセイ、料理、政治、経済etc..

写真の奇跡

2009年02月26日 18時54分09秒 | 写真詩

 

「私、自分の名前、嫌いだわ」

 

花は病室で、僕に言った。

 

「だって、儚いでしょう?名前通りに、儚く散っていくんだわ」

 

「何言ってるんだ。まだ望みはある」

 

「お見舞いに花、持ってきてくれなくてよかったわ。

 

枯れていくところを見ると、自分の命が残り少ないのを予感して、怖くなる。

 

拡張型心筋症だって。どうして私だけこんな病気になったの?

 

原因不明の病気で、心臓移植か、バチスタ手術とかいう、

 

難しい手術しかないなんて・・」

僕は何も言えなかった。

 

 

家に帰って、ライブラリから、過去撮ったポジフィルムをひっくり返した。

 

 

あった。

 

プロラボに持っていって、2L版に焼いてもらうよう依頼した。

 

 

2時間後に出来上がった。

 

僕はその写真をラボで買った写真立てに入れ、病院へ戻った。

 

 

「また、来てくれたの?私の命は長くないから、来てくれるのは嬉しいわ」

 

「プレゼントを持って来たんだ。花だよ」

 

「花?嫌だと言ったのに。でも、この薄い包みに花が入っているの?」

 

花は包みを開いた。

 

中から出てきた写真を見て、花はしばらく見つめていた。

「なんて言う花?実物を見てみたいわ」

 

「沖縄に咲いている。プリメリアだ。写真だから散ることはない。

 

写真には、癒す力があると、僕は信じている。君がこの病気を克服したら行こう」

 

 

「わあ、大きい木。プリメリアって、こんな木に咲くのね」

 

あれから3か月。

 

僕らは石垣島のリゾートホテルにいる。

 

 

花は信じられない回復を見せた。

 

主治医はひたすら首を傾げていた。

 

「信じられない。奇跡としか考えられない。何が起こったのか・・」

 

「彼がね、私の命をながらえるプレゼントをくれたの。

 

この花が見たくて、沖縄にいる自分をいつも思い描いていたんです」

 

「あなたの自然治癒力が高まったんですね。驚きました」

 

 

僕も信じられなかった。

 

写真家である僕は、自然の声を聞き、そこからくるメッセージに従って、

 

それらを写真に写し、永遠の命を与える。

 

今回の奇跡は、自然からの贈り物だったのかもしれない。

 

 

花が上着を取った。

 

水着の上に、大きくプリメリアをあしらったパレオを巻いて、笑っていた。

 

 

風が吹いて来て、プリメリアの木を揺らし、プリメリアの花を揺らした。





 

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