愛詩tel by shig

プロカメラマン、詩人、小説家
shig による
写真、詩、小説、エッセイ、料理、政治、経済etc..

雪のダンス

2010年01月24日 08時55分55秒 | 


 寒い朝。

この冬一番の冷え込みだと、気象情報は告げていた。

図書館の窓ガラス越しに、道路を見つめている。
 

先ほどから雪が舞っている。

レンガ造りの建物をバックに。それは美しい光景だ。
 

一年前に突然、連絡が取れなくなった真美から、今朝メールが届いた。
 

K図書館で10時に」と、端的な文章。
 

僕は出かけることにした。一年のブランクのわけを知りたかった。
 

そういうわけで僕は、図書館2Fの窓際に立って外を眺めている。

交差点を渡って、急ぎ足でこちらに向かっている赤いコートが目に留まった。

雪の白さの中、赤い色が際立っている。

真美だ。
彼女は傘が嫌いだ。
 

渡りきったとき、ふとこちらを見上げる。
 

視野から真美が消える。
僕は相変わらず窓の外を見たままだ。
 

やがて背中から声がした。
 

振り返ると、真っ赤なコート姿の真美がいた。
 

「どうしてたの?」
 

「入院」
 

「え?」
 

「心の病。心配かけるから電話しなかったの」
 

「連絡ないほうがよほど心配すると思うけど」
 

「そうね。でも、私には出来なかった。」
 

「で、どうして図書館なの」
 

「この窓から見える景色、素敵でしょう?特に今日みたいな雪の日は。 

二人でこの窓から降る雪を眺めたかったの」
 

「確かに素敵だね」
 

僕らは窓越しに、風に運ばれて空中をダンスする雪をひたすら眺めていた。
 

雪はさらに強く舞った。

真美の大きな瞳から、一筋涙が伝う。
 

僕は真美の肩を優しく抱いた。
 

「もう大丈夫かい?」
 

真美は小さく頷いた。
 

僕らは窓辺からの雪のダンスを見続けた。

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