寒い朝。
この冬一番の冷え込みだと、気象情報は告げていた。
図書館の窓ガラス越しに、道路を見つめている。
先ほどから雪が舞っている。
レンガ造りの建物をバックに。それは美しい光景だ。
一年前に突然、連絡が取れなくなった真美から、今朝メールが届いた。
「K図書館で10時に」と、端的な文章。
僕は出かけることにした。一年のブランクのわけを知りたかった。
そういうわけで僕は、図書館2Fの窓際に立って外を眺めている。
交差点を渡って、急ぎ足でこちらに向かっている赤いコートが目に留まった。
雪の白さの中、赤い色が際立っている。
真美だ。
彼女は傘が嫌いだ。
渡りきったとき、ふとこちらを見上げる。
視野から真美が消える。
僕は相変わらず窓の外を見たままだ。
やがて背中から声がした。
振り返ると、真っ赤なコート姿の真美がいた。
「どうしてたの?」
「入院」
「え?」
「心の病。心配かけるから電話しなかったの」
「連絡ないほうがよほど心配すると思うけど」
「そうね。でも、私には出来なかった。」
「で、どうして図書館なの」
「この窓から見える景色、素敵でしょう?特に今日みたいな雪の日は。
二人でこの窓から降る雪を眺めたかったの」
「確かに素敵だね」
僕らは窓越しに、風に運ばれて空中をダンスする雪をひたすら眺めていた。
雪はさらに強く舞った。
真美の大きな瞳から、一筋涙が伝う。
僕は真美の肩を優しく抱いた。
「もう大丈夫かい?」
真美は小さく頷いた。
僕らは窓辺からの雪のダンスを見続けた。