女友達と私は時々この高層ホテルのバーに来る
彼女の彼が スコッチのボトルをキープしてるのだ
前に並んだ洋酒のボトル越しに 夜景が綺麗に見える
私のお気に入りの場所だ
一番右のカウンターに いつも陣取ってる男性がいる
何を飲んでいるのか解らないが 時々グラスのかどを舐めながら飲んでいる
ハンサムというんではないけれど 彫りが深くて個性的な顔をしている
来るたびに何となく意識しはじめて 彼に興味を持ってしまった
ある日 友達と待ち合わせしていたのがキャンセルになってしまった
バーでマナーモードの携帯がふるえた
ごめんね まだ会社なの また今度ね
席を立とうとすると バーテンダーが カクテルを一杯運んできた
あちらのお客様からです
えー あのう
彼は知らぬ顔で前を向いている
バーテンダーは言う
ソルティドッグです 縁に付いている塩をなめながらおのみ下さい
飲むとグレープフルーツの味がした
しかし しっかり辛かった
私は勇気を持って 彼の隣に移った
ご馳走様
お口に合いましたか
ええ あなたのいつも飲んでるの これだったんですね
そうです これが好みです 塩をなめると涙の味がする
彼女とかいらっしゃらないんですか いつもおひとり
こいつが彼女ですよ
でも あなたが 彼女になってくださるなら こいつともおさらばですが
私は笑ってしまった
そんな喋り方する人って そんな誘い方する人って 滅多にいませんわ
はい 解りました でもこのカクテルを飲み終わるまで待ってくださいね
わたしはカクテルを飲み干し 彼と手を組んでバーを出た
バーテンダーは 夜景の方に目を向けた