岡崎も春本番
京都・岡崎公園の国立近代美術館で「明治150年展」が始まりました。展覧会は、明治時代の日本画と工芸の作品が、どのような時代背景で生み出されたのかを丁寧に解説しています。近年は「超絶技巧」と呼ばれ、超リアル表現で本物と見間違うような明治工芸が人気を集めていますが、それらが生み出された時代背景は案外知られていません。
今年2018年は明治になって150年の節目の年です。そんな節目の年に相応しい、美しい理由を学べる展覧会です。
都が東京に移った京都では衰退への危機感が強く、伝統的な日本画や工芸技術で新たな道を開拓しようとしていました。京都府画学校、現在の京都市立芸術大学が1880(明治13)年に創設され、日本画家を養成して京都の伝統文化を継承しようとします。
しかし東京遷都に伴って家族になった公家も東京へ移り、画家の成長を支えるパトロン自体が激減していました。そのため卒業生は画家として独り立ちできず、多くが工芸品や着物の下絵を描いて生計を建てていました。
会場には明治の京都画壇の秀作が展示されるとともに、そうした下絵も多数展示されています。下絵であっても立派な美術品として通用するものばかりです。
工芸品は明治の日本では重要な輸出品でもありました。幕末に開港して以来、西洋にはない美しさに関心を持った外国人たちが、日本美術を本国に紹介します。また日本政府も欧米で開かれた万国博覧会に工芸品・美術品を積極的に出展します。欧米で一大日本ブームが起こるのです。
明治の画家や工芸職人たちは、こうした海外需要に大いに支えられました。政府も画家や職人を育てようと、東京や京都で内国勧業博覧会を催し、美術工芸作品を出展させます。
陶磁器・七宝・ガラスといった窯業の世界でも、ドイツ人ワグネルがもたらした技術革新により、下絵の繊細な絵柄表現をほぼ正確に焼き付けることができるようになります。中国が清朝末期の混乱で陶磁器の輸出が滞っていたという幸運にも助けられ、焼物の輸出も飛躍的に増加します。
明治の日本の美術や工芸は、外国からの需要に大きくけん引されていた時代でもありました。どのような図案・デザイン・モチーフが外国人に好まれるかを研究し、新しい技術を活かして大量生産を行います。明治政府もデザイン帳である「温知図録」を作って品質の向上を図っていました。
この時代の工芸品はとてもリアルです。製造技術にしろ、表現力にしろ、飛躍的に進化していることがわかります。一方で日本人が好む“曖昧さ”が全くないことから、違和感を覚える人がいるかもしれません。
しかしそれが明治の日本が遺した美術工芸です。江戸時代以前の絵画や仏教美術が大量に海外に流出する中、工芸も輸出で近代化を推し進めました。明治の日本には、美術品の海外流出を食い止め、若手芸術家を育てるパトロンが国内にはまだ少なかったのです。
出品作のリアルさは本物を見てお確かめを
【画像出典】 公式サイト 展覧会チラシPDF
作品そのものの魅力はもちろん、まだ「極東の小さい島国」だった明治が、美術界にとってどのような時代だったのかがとてもよくわかります。ぜひお出かけください。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
現代とは性格が異なった明治の博覧会の意義とは
京都国立近代美術館「明治150年展 明治の日本画と工芸」
http://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2017/424.html
主催:京都国立近代美術館、京都新聞
会期:2018年3月20日(火)~5月20日(日)
原則休館日:月曜日
※4/22までの前期展示、4/24以降の後期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※この展覧会は、他会場への巡回はありません。
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