大阪・中之島の国立国際美術館で、所蔵品を時代や作家別ではなくテーマ別に展示するコレクション展「視覚芸術百態」が始まっています。
日本の展覧会は時代や作家別に構成するものだという固定観念がまだまだ強いです。しかし欧米ではロンドンのTATE MODERNのように、現代アートは常設展でもテーマ別に展示することが主流になりつつあります。
現代美術は鑑賞にあたって、古典絵画のような時代背景や地域の影響の理解はほぼ必要ありません。そのためテーマ別展示は鑑賞者の好奇心を刺激するには合理的な方法の一つです。しかし“無”から展示構成を作り上げねばならないがゆえに、企画するキュレーターとそれを受容する鑑賞者、双方のいわば“度胸”が試されます。
国際美術館は、地下3Fが新聞社主催の大規模企画展の会場になることが多いため、通常は地下2Fだけでコレクション展を行っています。しかし今回のコレクションは、8,000点を超える所蔵品の中から200点ほどを厳選し、地下3Fと2Fの両フロアを使って催す“大規模な”コレクション展です。
国際美術館のコレクションは戦後の国内外のアート作品を幅広く網羅しています。今回の展覧会では作品の要素/描写の対象の2つの切り口から19のテーマを設定し、1区画で1テーマを展示しています。19のテーマには便宜上番号が振られていますが、テーマ相互に関連性はないため、鑑賞順は思うがまま自由に進める方が楽しいと思います。
区画に入った瞬間に感じる空気感で、その中の作品への印象が決まります。区画に入る前にはその区画のテーマを表現した文字以外に情報はないためです。何が出てくるかわからないワクワク感が、現代アートの「テーマ別」展示の醍醐味です。
鑑賞者によっては、同じ区画内の作品同士が釣り合わず、“ケンカしている”と感じる場合もあると思います。しかし万人を満足させる展示構成はあり得ないためやむをえません。自分の感性に反応しなければ流すのみでう。
この展覧会を鑑賞していると、自分がどのような現代アート表現に反応するかがよくわかります。現代アートは「作品の要素」「描写の対象」に定義や条件はありません。同じ作家でも、作風ががらりと変わってしまうことも珍しくありません。「何でもあり」であるがゆえに、どんな作品に自分が反応するのかがわかりにくくなりがちなのです。
高松次郎、横尾忠則といった日本勢のほか、マルセル・デュシャンやロイ・リキテンスタインといった海外の著名作家の作品もあります。作家のネームバリューよりも作品そのものの魅力の方が強いオーラを出しているように感じました。これも「テーマ別」展示の魅力ではないでしょう。
展示にビビッと反応するか否かで、全く印象の異なる展覧会です。自分の鑑識眼を試したい、視野を広げたいという好奇心旺盛な方に特におすすめです。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
20世紀末の日本のアートシーンのバイブル
国立国際美術館 「視覚芸術百態:19のテーマによる196の作品」
http://www.nmao.go.jp/exhibition/2018/19200.html
主催:国立国際美術館
会期:2018年5月26日(土)~7月1日(日)
原則休館日:月曜日
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
おすすめ交通機関:京阪中之島線「渡辺橋駅」下車徒歩5分、大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車徒歩10分、JR環状線・阪神本線「福島駅」・JR東西線「新福島駅」下車徒歩10分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
JR大阪駅→大阪メトロ四つ橋線→肥後橋駅
公式サイトのアクセス案内
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