ルーベンス(Peter Paul Rubens)は、17cヨーロッパのバロック絵画の巨匠の一人です。世界のメジャーな美術館では必ずと言っていいほど重要なコレクションになっています。
イタリアで学んだ後、アントワープを拠点に外交官としても活躍し、ヨーロッパ中の宮廷から注文を受けていました。豊満な肉体表現と明るいタッチは、反宗教改革と絶対王政の確立という17cの時代の波にとてもマッチした画風でした。
まもなく始まる兵庫県立美術館の「プラド美術館」展でも、展示構成の重要な位置を占めます。また10月から始まる上野・国立西洋美術館の「ルーベンス展」では、イタリア絵画がどれほどルーベンスの絵を洗練させたかを堪能できそうです。
アントワープの「ルーベンスの家」
現在アントワープで博物館となっている「ルーベンスの家」は、ルーベンスの自宅兼工房でした。ヨーロッパ中から殺到する大量の注文をたくさんの弟子と共にここでさばいていました。
当時のアントワープは、オランダ独立戦争の影響で世界貿易の中心としての地位を失っていましたが、絵画芸術ではルーベンスによって黄金期を迎えていました。国力が衰退していくフェリペ4世の時代に、ベラスケスらによってスペイン絵画が黄金期を迎えたのと同じ流れです。政治経済が曲がり角を迎えた後に美術が繁栄する流れは、古今東西珍しくありません。
ルーベンスは宗教・神話・肖像画を迫力ある画風で描きます。イタリアルネサンスの巨匠たちの落ち着きのある洗練された画風に、カラヴァッジョの写実表現をミックスさせたように感じられます。ふくよかで力強い人物表現や明るい色使いはとても目立ち、カトリックの宮廷の権威付けにはうってつけでした。宮廷からの注文の代表作は、やはり圧巻の「マリー・ド・メディシスの生涯」24連作です。
【公式サイトの画像】 ルーブル美術館「アンリ4世の神格化とマリー・ド・メディシスの摂政宣言」
プロテスタントが教会内に偶像や絵画を飾ることを禁じていたこともあり、カトリック勢力が反宗教改革の一環として、人々を惹きつけるインパクトのある宗教画を多く発注していました。
ルーベンスは当時の最先端の画風でもあったことから、教会からも多くの注文を獲得します。協会からの注文の代表作は、アントワープの聖母マリア大聖堂「キリスト昇架/降架」です。日本人にだけ有名な「フランダースの犬」の悲劇の舞台です。
【公式サイトの画像】 アントワープ・聖母マリア大聖堂「キリスト昇架」
ルーベンスはアントワープの名家の出身で、そのふるまいは洗練されていました。イタリア留学時代のマントヴァ公、アントワープ帰国後のスペイン領ネーデルラント大公妃でスペイン王女イサベルと、トップクラスの王侯の目に留まったことが、彼の画家人生を大きく飛躍させます。
マントヴァ公の命によりイタリア各地で絵画の収集を行い、ルネサンスの巨匠やカラヴァッジョの画風をたっぷりと学ぶ機会に恵まれます。スペイン王女イサベルの元では宮廷画家兼外交官となり、オランダ独立戦争の調停のためにスペインとイングランドの宮廷を何度も往復します。
マドリードではフェリペ4世やベラスケス、ロンドンではチャールズ1世と、当時のトップクラスの芸術愛好家と親交を重ねます。ルーベンスの名声は高まるばかりでした。
ルーベンスは晩年、37歳年下のエレーヌと再婚します。晩年の作品はエレーヌをモデルにしたと思われる女性の豊満な肉体表現が目立ちます。
【公式サイトの画像】 プラド美術館「三美神」
ルーベンスが1640年にアントワープで息を引き取った後、ヨルダーンスが神話画や風俗画でアントワープ画壇をけん引します。またルーベンス工房の弟子で最も高名なヴァン・ダイクは、イングランドのチャールズ1世の下で気品あふれる肖像画を多数描きます。
同じ頃、アントワープに代わって世界貿易の中心となったアムステルダムでは、レンブラントやハルスが登場し、市民階級向けの肖像画が全盛期を迎えます。
アントワープ・聖母マリア大聖堂
ルーベンスほど、ヨーロッパ中の宮廷から信奉を集めた画家はいないでしょう。七か国語を話したという彼の社交性は、商業の中心で人の交流が盛んだったアントワープでなければ習得できなかったかもしれません。
【Wikipediaへのリンク】 ピーテル・パウル・ルーベンス
ルーベンス(1577-1640)と同世代の画家は多数います。
- ヤン・ブリューゲル<父>(1568-1625)フランドル
- ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ(1571-1610)イタリア
- ドメニキーノ(1581-1641)イタリア
- フランス・ハルス(1584-1666)オランダ
- ヤーコブ・ヨルダーンス(1593-1678)フランドル
- 俵屋宗達(1570頃-1640頃)日本
- 岩佐又兵衛(1578-1650)日本
19cの美術史家の視点で見たルーベンス論
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