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肉筆浮世絵で錦絵にはない魅力を発見_奈良県立美術館 3/17まで

2019年02月19日 | 美術館・展覧会

奈良県立美術館で、「肉筆浮世絵」を桃山時代から幕末まで俯瞰できる企画展が行われています。版画ではなく絵画として1点もので描いた肉筆浮世絵の魅力を堪能できます。

  • 奈良県美はまとまった寄贈により浮世絵を多数所蔵、展示はほぼ館蔵コレクションで構成
  • 桃山時代の風俗画から幕末まで、肉筆浮世絵とその前身である風俗画を俯瞰できる
  • 作品を通じて人々の欲望が際限なく拡大していったことが見えてくる


一般的に浮世絵とイメージされる4色刷り版画である錦絵(にしきえ)とは異なり、1点ものです。注文主である上流階級が好むモチーフや画題が多くなります。肉筆浮世絵を通じて江戸時代の風俗画をより幅広く楽しめるようになります。



奈良県立美術館は1973(昭和48)年、日本画家の吉川観方(よしかわかんぽう)から多数の寄贈を受けたことで開館しました。その後も哲学者・由良哲次(ゆらてつじ)からも寄贈を受け、コレクションを充実させていきます。今回の展覧会も、吉川/由良の両コレクションから多くが構成されています。

展示は時代の流れとともに4章で構成されていきます。

  1. 浮世絵の先駆 近世初期風俗画
  2. 姿の美、衣装の美・・・浮世絵美人画
  3. 新奇な構図 浮絵
  4. 多彩な主題


会場に入ると「導入」と称して美人画の三作品が展示されています。この一角だけで江戸時代の美人画の変化がとてもよくわかります。江戸時代初期に浮世絵を確立した菱川師宣の長男・師房(もろふさ)が描いた「見返り美人」は、父の著名作とは逆に正面から後ろを振り返るように描いています。背景を一色に塗りつぶしていて人物は無表情、17c江戸初期の風俗画の特徴を明確にのこしています。

18cの川俣常正をはさんで、19cの歌川国長「椿と花魁図」になると、発色のよさや人物の表情の豊かさが明らかに進化していることがわかります。これから肉筆浮世絵の鑑賞を深めていくにあたって、上手に3点をチョイスしています。

I章「浮世絵の先駆」は、洛中洛外図など、人々の暮らしや遊興を生き生きと描いた風俗画です。市井の生活をモチーフとしていることから浮世絵の原点になったといわれるジャンルです。都以外にも厳島など有名景勝地がモチーフになっています。錦絵で一世風靡した東海道五十三次のような名所絵の先駆は、上流階級向けの屏風に描かれていたのです。

数少ない他館所蔵作品「舞踊図」は、「彦根屏風」を思わせるような洗練された作品です。6人の舞う遊女が屏風の各曲に1人ずつ描かれている構図も印象的です。京都市蔵の重要文化財です。展示は前期2/17までです。後期は奈良県美蔵「邸内遊楽図屏風」が代わって展示されます。


第2展示室の様子

写真撮影が可能な第2,3展示室は、I章の寛文美人とII章「姿の美、衣装の美」の18c半ばまでの浮世絵発展期の作品が展示されています。寛文美人とは、無背景に一人だけ立ち姿の美人を描いたもので、江戸時代前期の寛文年間(1661-73)を中心に描かれたことから名づけられています。人物は無表情に描かれます。

第1展示室に展示されている奈良県美蔵「伝吉野太夫像」が名品です。江戸時代初期の京都のトップ太夫を、威厳をも感じさせるほどに上質に描いています。

西川照信(にしかわてるのぶ)の「吉原風俗図」は、茶屋へ向かう遊女を眺める客を描いたものです。寛文美人図と比べ、人物に表情が描かれていることがわかります。構図も庶民向けの錦絵にはないものです。

宮川長春「花下美人少女図」や勝川春水「花下三曲合奏図」は人物の背景に重要なモチーフとなる花を描いています。人物が何を楽しんでいるのかがさらによくわかるよう描いており、着物の彩色もとても美しくなっています。

第4展示室は浮世絵が最盛期を迎えた18c後半から幕末にかけての作品です。錦絵が爆発的に流行した時代に、富裕層は売れっ子絵師に1点ものの肉筆画を描かせ、にやにやしていた様子が浮かんできます。一般受けする構図の錦絵とは異なり、どの作品もとても個性のある構図ばかりです。

【奈良県立美術館の画像】 葛飾北斎「瑞亀図」

第6展示室のIV章「多彩な主題」には、これが北斎かと思えるような作品「瑞亀図」があります。老夫婦が亀に酒を飲ませており、長寿を祝った作品です。錦絵ではこんな北斎作品には出会えません。注文主に応じた実に多様な表現が、肉筆浮世絵の最大の魅力です。


完成間際のバスターミナル

奈良県美のすぐ近く、県庁東側で建設中の観光バス向けのターミナルがまもなく2019/4/13にオープンします。奈良公園の観光バス団体の乗降・休憩・買物の拠点ができ、奈良公園周辺の混雑緩和が期待されます。建設を主導した奈良県のマーケティング力が試される施設です。完成後にはぜひ見物したいものです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



2015年に話題を呼んだシカゴのコレクター所蔵品展覧会の図録

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奈良県立美術館
企画展
姿の美、衣装の美・・・肉筆浮世絵
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:奈良県立美術館
会期:2019年1月19日(土)~3月17日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:00~16:30

※2/17までの前期展示、2/19以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影とWeb上への公開が可能です。
 ただしフラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音は禁止です。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札口1番出口から徒歩5分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間5分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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