奈良国立博物館で冬の特別陳列が行われています。定番の「お水取り」に加え、今年は「鎌倉時代の唐招提寺と戒律復興」がテーマです。
- 唐招提寺の中興の祖・覚盛(かくじょう)を中心に、鎌倉時代の戒律復興の様子を学べる
- 普段非公開の唐招提寺・礼堂にある清凉寺式の釈迦如来立像が美しい
- 西大寺の国宝・叡尊坐像を彷彿とさせる覚盛坐像も必見
奈良博らしい落ち着いていて、質の高い展示構成となっています。展示は西新館の一部屋だけですが、「お水取り」展やとともに仏教美術では他の追随を許さない名品展も一緒に楽しめます。
覚盛は鎌倉時代初めの1194(建久5)年生まれで、同じく戒律復興で知られる、1201(建仁元)年生まれの西大寺の叡尊(えいそん)とほぼ同世代です。二人は東大寺で揃って受戒し、平安時代にかなり軽視されていた、僧の生活規律である”戒律”の復興に生涯をささげます。
覚盛の唐招提寺は、戒律研究を主に行う宗派・律宗の総本山です。唐招提寺では、自らのアイデンティティでもある戒律を立て直した覚盛をしのぶとても有名な行事が、現在も行われています。「うちわまき”で知られる中興忌梵網会(ちゅうこうきぼんもうえ)です。
殺生戒を守って蚊も殺さなかった覚盛の徳をしのび、霊前にうちわを供えたのが始まりとされています。鼓楼より参拝者にまかれるハート形のうちわは、縁起物としてとても人気があります。
【唐招提寺】 春の行事「うちわまき」
叡尊の西大寺は、律宗と真言密教が融合した真言律宗(しんごんりっしゅう)の総本山です。西大寺の著名行事・大茶盛も叡尊にゆかりがあります。真言律宗は、海龍王寺や浄瑠璃寺など奈良周辺の寺に大きく広がっています。覚盛が戒律の本家の唐招提寺を立て直し、叡尊が戒律の教えをより拡散させたという見方もできます。二人は鎌倉時代の奈良仏教にはかけがえのないスーパースターなのです。
【展覧会公式サイトの画像】 唐招提寺「釈迦如来立像」
展示室ではまず、洗練された感のある清凉寺式の釈迦如来立像が目に入ります。正面に同心円状に広がる衣のひだととても落ち着いた細い眼の表情が、いつ見ても心を和ませます。覚盛の没後、ほどなくして摸刻されました。弟子たちが覚盛への思いを重ね合わせた仏様のような気がしてなりません。
安置されている唐招提寺の礼堂(らいどう)は普段非公開ですので、お会いできる貴重な機会になります。重要文化財です。
【展覧会公式サイトの画像】 唐招提寺「大悲菩薩(覚盛)坐像」
釈迦如来立像の隣には、どこかで見たことあるような長い眉毛の僧侶像が存在感を放っています。重要文化財の覚盛の坐像で、覚盛の死から約150年後に造られました。体格がよく堂々としています。長い眉毛は、西大寺の国宝・叡尊坐像とそっくりです。後世に造るにあたって、戒律復興の二人の立役者のシンボルのようにしようと注文主や仏師が考えていたとすれば、とても面白い試みです。
博物館裏の庭園
西新館の名品展や、東新館の「お水取り」展、なら仏像館の「珠玉の仏たち」ともに、国宝や重要文化財がまさに”ごろごろ”あります。奈良博には本当に大切な仏教美術が保管されています。
こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。
日本の美しさの英語表現には感銘を受ける
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奈良国立博物館
特別陳列
覚盛上人770年御忌 鎌倉時代の唐招提寺と戒律復興
【美術館による展覧会公式サイト】 鎌倉時代の唐招提寺と戒律復興
主催:奈良国立博物館、唐招提寺
会場:西新館
会期:2019年2月8日(金)~3月14日(木)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~19:30)
※お水取り期間中にも開館時間の延長があります。
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
同じ会期で特別陳列「お水取り」が東新館で行われています。
【美術館による展覧会公式サイト】 お水取り
◆おすすめ交通機関◆
近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札口C出口から徒歩15分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間15分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅
【公式サイト】 アクセス案内
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