期待感を高める会場入口のファザード
江戸時代と近代の日本画家のコレクションで定評のある東京・府中市美術館で「リアル 最大の奇抜」が行われています。毎年恒例の「春の江戸絵画まつり」として行われている展覧会で、京都の円山応挙、江戸の司馬江漢ら、時代を代表する写実派による“リアル”作品を味わうことができます。
江戸時代半ばでも西洋絵画の刺激がまだ少なく、日本ではリアルな絵画表現が斬新でした。そのリアル表現は京都と江戸でトーンが異なることが作品を通じて学ぶことができます。府中市美術館らしい味わい深い企画展です。
展覧会場の冒頭、大坂を拠点にリアルな猿の絵を描いた森狙仙(もりそせん)の「群獣図巻」が観客を出迎えます。トラ・テン・タヌキなど様々な動物を実に多様なポーズで描いています。
彼は円山応挙のように、徹底的にモチーフを観察していたことで知られています。それぞれのポーズは写真のように動いている瞬間をとらえていることが分かります。実際の動きを観察しないと描けないと思えるほどの迫力です。
円山応挙の「鯉図」も、鯉が水の中で向きを変えようとする瞬間をとらえています。この絵も鯉の動きを観察しない限り絶対に描けないと感じます。しかし魚なので水の中で動いています。応挙はどうやって観察したのでしょう?
江戸時代半ばの上方では、伊藤若冲や円山応挙によるリアルな表現がとても人気を集めていました。従来の日本画になかった写真のように人間の見た目に忠実な表現が支持されます。明治の「京都画壇」の源流となる新たな表現流派として定着します。
江戸のリアル表現は、より中国や西洋絵画の影響を感じます。この東西の違いは町の成り立ちの違いが大きいのではと、私は感じています。
京都は、公家・寺・町衆といった富裕層が絵のクライアントの中心層でした。武家がほとんどいないことから贅沢だと咎められることもありません。結果的に高額な絵が多く求められ、庶民が手を出せる作品は少なかったと考えられます。町が古くからあり、蓄積されてきた芸術表現から大きく外れることは好まれません。応挙や若冲の作品も写実表現は素晴らしいですが、一目見て日本画表現から外れていないことが分かります。
江戸は町の歴史は短く、蓄積されてきた芸術表現はありません。大名が高額な絵のクライアントでしたが、格式にこだわるため斬新な表現は好まれません。
江戸では時が経つにつれ中下級武士や庶民が芸術や文化の担い手の中心になっていきます。歴史がないため表現はとにかく自由です。またリーズナブルな価格帯が好まれます。浮世絵は、庶民が流行情報を得る雑誌や中下級武士が国元に持ち帰る江戸土産として爆発的に流行したものです。
江戸で中国や西洋絵画風のリアル表現が受けたのも、しがらみのなさが背景にあると考えられます。
司馬江漢(しばこうかん)は、当時のスーパー知識人だった平賀源内から刺激を受け、中国や西洋の写実表現を学びます。当時の最先端サイエンスだった蘭学にも通じ、油絵も描くようになります。
森狙仙や円山応挙の写実表現と異なり、一見して日本画には見えません。「円窓唐美人図」は窓から見える遠景を遠近法で描いており、西洋絵画の表現を見事にマスターしていることがわかります。女性の顔に少しはにかんだよう表情を描く表現も西洋的です。西洋風絵画の初期の作品として、とても見応えがあります。
ご紹介した作品の画像は、展覧会チラシPDFでご覧ください
【公式サイトの画像】 展覧会チラシPDF
新緑が美しくなる府中の森公園
府中市美術館は、広大な「東京都立府中の森公園」の一角にあります。新緑が美しい季節です。そんな素晴らしい季節に、江戸絵画の面白さを堪能できる展覧会です。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
府中市美術館で大成功を収めた展覧会の図録
府中市美術館 「春の江戸絵画まつり リアル 最大の奇抜」
https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/real.html
主催:府中市美術館
会期:2018年3月10日(土)~5月6日(日)
原則休館日:月曜日
※4/8までの前期展示、4/10以降の後期展示でほとんどの展示作品が入れ替えされます。
※この展覧会は、他会場への巡回はありません。
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