蚕の社(かいこのやしろ)は京都の西・太秦(うずまさ)にある、京都で最も古い神社の一つです。全国的にも珍しい鳥居を正三角形に組み合わせた三柱鳥居(みはしらとりい)で知られ、境内はコンパクトながらもパワースポットにふさわしい静けさに包まれています。特に三柱鳥居のある元糺の池(もとただすのいけ)は、京都でも有数の神秘的な空間です。
古代日本の国家形成に大きな影響を与えた渡来技術集団・秦(はた)氏と、江戸時代の日本最大級の豪商・三井家にとてもゆかりのある神社でもあります。繊維業関係者からは現在も信仰を集めています。
三柱鳥居
蚕の社は正式には木嶋坐天照御魂神社(このしまにますあまてるみたまじんじゃ)と言いますが、正式名を言っても京都の人はほぼ誰もわかりません。短縮した木嶋神社(このしまじんじゃ)と言えば、わかる人は少しいます。
本殿の東隣にある摂社・蚕養神社(こかいじんじゃ)が製糸業者の信仰を集めたことから、いつしか神社全体が「蚕の社」と呼ばれるようになりました。そのため呉服商の三井家が京都における事業の守護神として篤く信仰しており、明治に東京に拠点を移して以降も深い関係は続きます。
朝鮮半島から最先端技術をもたらした秦氏は、6cには京都・太秦を本拠地として活動していたと考えられます。蚕の社からも近い広隆寺(こうりゅうじ)は、603(推古天皇11)年に秦氏の氏寺として創建されたとする説があり、京都で最古の仏教寺院であることはほぼ間違いないでしょう。
秦氏は養蚕・機織・酒造・治水などの技術に長じており、それら守護神として創建したとされる神社も賀茂神社と並んで京都最古クラスです。蚕ノ社のほか、松尾大社・伏見稲荷大社が該当します。
入口の鳥居から本殿までは100mほどしかなく境内は大きくありません。小さいながらも密度の濃い鬱蒼とした森が、この神社の空間に特別な趣を与えています。夏に木陰に入るとクールダウンしたことをはっきり感じられるほどです。
三柱鳥居と元糺の池は本殿のすぐ横にあります。池は現在枯渇していますが、何人も立ち入ってはならないと無言のプレッシャーがかかるような神秘性を感じます。
「糺」と聞けば、現在では下鴨神社の社業の森が有名ですが、蚕ノ社の方の名称には「元」が付けられていることが気になります。元来は蚕ノ社の社業が「糺の森」だったが、いつしか下鴨神社にその名を移したという説もあるようです。合理的な根拠を見つけることは困難でしょうが、京都の地名には元あった施設名が残ることは少なくありません。とてもロマンのある話です。
三柱鳥居の意味や起源は全くわかっていません。実物を見るとナスカの地上絵のような超人的な神秘性を感じます。全国的にもほとんど例はありませんが、確認できるものは蚕ノ社に由来するものが多くなっています。
南禅寺・大寧軒の三柱鳥居
東京・向島の三囲神社(みめぐりじんじゃ)のものは、明治になって三井家が蚕ノ社の三柱鳥居を模して設置しました。三囲神社は三井家の江戸における守護社です。京都・南禅寺・大寧軒のものは、明治に別荘となって以降に、蚕ノ社を模して造られたと伝えられています。
京都でも有数の非日常感を体験できる空間です。となると季節は夏がおすすめです。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
古代の京都を形作った秦氏が伏見稲荷にのこしたミステリーに迫る
蚕の社(木嶋坐天照御魂神社)
【京都市観光協会サイト】
※拝観・見学に条件はありません。いつでも無料で拝観・見学できます。
おすすめ交通機関:
嵐電嵐山本線「蚕ノ社」駅下車徒歩3分、京都市バス「蚕ノ社」バス停下車徒歩3分
地下鉄東西線「太秦天神川」駅下車徒歩5分、JR嵯峨野線「花園」駅下車徒歩7分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
京都駅→JR嵯峨野線→花園駅
※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さと駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。
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