ビュールレさん、ようこそ六本木へ(赤いチョッキの少年)
東京・六本木の国立新美術館で「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」が行われています。印象派やポスト印象派の個人コレクションとしては世界最大級と言われており、画家たちの個性を満喫できる充実したコレクションです。
このコレクションはまもなく公的な美術館に一括寄贈されます。コレクションとしての最後のお披露目に世界各地を巡回しており、六本木にやってきました。欧米の個人コレクションは、質量ともに圧倒されますが、その中でも随一のものです。とても充実したたくさんの作品を見ることができます。
このコレクションを形成したのは、ドイツ生まれのスイスの実業家エミール・ゲオルク・ビュールレです。両大戦で武器商人として成功しますが、第二次大戦中にスイス政府により武器輸出が禁じられると民生品ビジネスに転じ、引き続き財を成します。入手作品がナチスによる強奪品とわかると元の持ち主に変換するなどフェアな姿勢にも努め、1937年から1956年にかけてコレクションを築き上げました。
1956年の彼の死後、チューリヒ湖畔の邸宅を美術館としてコレクションを公開していましたが、2008年に4点の傑作が強奪されます。4点はその後無事に戻ってきましたが、一般公開は規制されていました。最終的に自らの美術館での安全確保を断念し、すべてのコレクションを2020年にスイス最大のチューリヒ美術館に一括寄贈することになりました。
展覧会のチラシ・ポスターにも採用されているセザンヌの「赤いチョッキの少年」はコレクションの最高傑作の一つです。強奪された作品の一つでしたが、無事に戻ってきた強運の持ち主でもあります。物憂げな表情に見えますが、セザンヌらしく明るいタッチです。一方で、仏像のように無心の境地を表しているようにも見えます。人を惹きつけるオーラを感じます。
「アングル夫人の肖像」は、アングルが仲睦まじかった妻・マドレーヌを描いた肖像画です。アングルらしい古典に出てくる女神のように描かれています。アングルらしくなく筆が粗いことから「未完成品」と解説されていますが、かえって夫人が神格化されたような印象を与えます。とても魅力的です。
「ルーヴシエンヌの雪道」は、カミーユ・ピサロによって雪化粧した街並みが明るく描かれた作品です。ピサロの作品で雪の光景は多くありませんが、彼らしく日常の光景を素朴に描き出しているところに見栄えがあります。
「花とレモンのある静物」は、ピカソがナチス占領下のパリで描いた作品です。黒を多用した静物画は戦争の暗い影を感じさせます。一方きびきびしたキュビズム的幾何学模様と、主役の黄色いレモンが絵全体をとても引き締めています。
【公式サイト】 ご紹介した作品の画像が掲載されています
ミッドタウンから檜町公園に向かう道は桜の名所
六本木はすっかり、東京では上野と並ぶ美術館エリアとして定着しました。2018年の春は、六本木に横綱級のコレクションが来ています。
こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。
国立新美術館
至上の印象派展 ビュールレ・コレクション
http://www.nact.jp/exhibition_special/2018/buehrle2018/
http://www.buehrle2018.jp/
主催:国立新美術館、東京新聞、NHK、NHKプロモーション
会期:2018年2月14日(水)~5月7日(月)
原則休館日:火曜日
※この展覧会は、東京・国立新美術館展の後、九州国立博物館、名古屋市美術館に巡回します。
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