美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

さすがは東京藝大 教科書的名品がずらり_コレクション展6/16まで

2019年04月27日 | 美術館・展覧会

東京藝大美術館で「藝大コレクション展2019」が始まっています。上野エリアでは正直目立たない美術館ですが、展示所蔵作品はびっくりするほどの名品揃い。いわゆる玄人受けする美術館です。

  • 国宝2点/重文18点を含む約30,000点のコレクションは日本トップクラスの充実ぶり
  • 常設展示はないため、年に1回コレクションを鑑賞できる貴重な機会
  • 卒業生/教官ゆかりの作品以外のあらゆる分野の蒐集品は、さすが日本の最高美術学府と思わせる


教科書に載っていることから藝大所蔵作で最も著名な作品の一つ、高橋由一「鮭」が出展されます。行くとほとんどの人が藝大美術館に魅了されること、間違いなしです。



東京藝大美術館は、正式には「東京藝術大学大学美術館」と言いますが、大学を繰り返していて長いのが正直やっかいです。何かこだわりがあるなら聞いてみたいと思いますが、お役所的な事情でないことを祈りたいものです。

東京藝大は、美術/音楽共に明治初めに源流となる学校が設立されており、現在の藝大美術館のコレクションも源流となった学校の設立以来行われています。蒐集目的は教育・研究のためであり、蒐集品は永らく図書館が管理し、学内に限って”閲覧”することができました。蒐集品の一般公開が始まったのは1970(昭和45)年からで、1999年には現在の展示室がある本館が完成しています。

コレクションは古美術品に加え、教官や卒業生の作品、文部省買上げ品で構成されます。東京藝大美術学部の卒業制作は伝統的に自画像で、村上隆や山口晃といった現役の著名アーティストの自画像がコレクションの中でも名物になっています。


正木記念館

今回の展覧会は地下の展示室だけが会場です。入口では、展覧会チラシ表紙に採用されているラファエル・コランの2mを超す大作「田園恋愛詩」が観る者を出迎えます。

【美術館公式サイトの画像】ラファエル・コラン「田園恋愛詩」

ラファエル・コランはパリに留学してきた黒田清輝/久米桂一郎/岡田三郎助/和田英作らに絵を教え、日本近代洋画の師と言われています。明るい陽光を取り込んだ「外光派」の一人ですが、印象派と古典主義の折衷のような画風が特徴です。「田園恋愛詩」は、ジャポネスクを感じさせる森と湖の背景に、耽美なアダムとイブのような裸体の男女を描いています。耽美な香りも感じさせます。

【美術館公式サイトの画像】黒田清輝「婦人像(厨房)」

「田園恋愛詩」の横には、黒田清輝の最高傑作の一つ「婦人像(厨房)」が並んでいます。パリ留学時代に描いた作品で、毎日を力強く生きている女性がふと見せた息抜きの表情を見事にとらえています。日本人画家が、外国人女性をモデルに描いた作品の中でも不朽の名作です。

いずれも通期展示されます。



この展覧会では会期中に大幅な展示替えがあります。前半1期のみ展示の注目作品に、池大雅「富士十二景図」があります。

12カ月の富士山を描いた作品ですが、永らく行方不明だった9月が近年発見されて東京藝大美術館の所蔵となり、12幅が揃って展示されます。うち4幅は滴翠美術館所蔵品です。富士山は大雅らしい雄大な構図にとてもあうモチーフです。12幅が並ぶと、その雄大さがさらに魅力を増します。

【美術館公式サイトの画像】「絵因果経」
【美術館公式サイトの画像】狩野芳崖「悲母観音」
【美術館公式サイトの画像】下村観山「天心岡倉先生(草稿)」

1期のみ展示には、日本最古級の奈良時代の絵巻・国宝「絵因果経」、狩野芳崖の絶筆で最高傑作・重文「悲母観音」、下村観山「天心岡倉先生(草稿)」といった著名作もずらりと並びます。美術の教科書をたどっている気分になれます。

明治に洋画を志した若者はみなフランスへ留学したような印象が強いですが、イギリスへ留学した若者も少なからずいました。ラファエル前派や内面を描き出そうとする象徴主義文学/絵画の本場として注目されており、日英同盟の締結もあって国家レベルでも親近感を共有できた時代でした。今回の展覧会ではイギリス留学生の作品もまとまって展示されています。

【美術館公式サイトの画像】原撫松「裸婦」
【美術館公式サイトの画像】牧野義雄「テームス河畔」

原撫松(はらぶしょう)の「裸婦」は、高いデッサン力と深みのある絵肌表現の双方が両立した傑作です。原撫松は名士の肖像画が多く、画家としての知名度は高くありませんが、驚くべき腕の良さを感じさせます。通期展示されます。

幻想的な風景画で知られる牧野義雄の「テームス河畔」は、霧がかかったロンドンらしい風景がしとやかに描かれています。同時代の印象派の作品とは対照的に画面は明るくありませんが、かえって大英帝国の存在感と魅力を表現しているようで、観る者を惹きつけます。1期のみ展示です。

【美術館公式サイトの画像】白瀧幾之助「稽古」

高橋由一「鮭」とともに、近代洋画の名作はまだまだあります。「稽古」は白瀧幾之助(しらたきいくのすけ)の卒業制作品です。下町の日常生活を写実的に描いた白瀧の傑作の一つで、師の黒田清輝の影響を受けた光の表現が絶妙です。1期のみ展示です。

【美術館公式サイトの画像】和田英作「思郷」

フランス留学時代にパリの料亭で働く女給を描いた作品です。窓から風景を眺める少女の表情が、タイトル通り、絶妙にメランコリックに表現されています。風景画でも感情を感じさせるような和田の生き生きとした描写が際立つ肖像画の名品です。通期展示されます。


藝大アートプラザ

5/14からの2期展示では、「悲母観音」と並ぶ狩野芳崖の傑作仏画で重文の「不動明王」、橋本雅邦の重文「白雲紅樹」、川合玉堂「鵜飼」、山口蓬春「市場」など、こちらも教科書クラスの名品が並びます。

藝大の学生/卒業生/教官の作品を展示・販売する「藝大アートプラザ」もできています。アート作品に限らず、買いやすい雑貨も結構そろっています。藝大美術館を訪れる楽しみが一つ増えたようです。

【公式サイト】 藝大アートプラザ


こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



藝大生って確かにイメージがわかない

________________

<東京都台東区>
東京藝術大学大学美術館
藝大コレクション展 2019
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:東京藝術大学
会場:本館 展示室1
会期:2019年4月6日(土)~6月16日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※5/6までの1期展示、5/14以降の2期展示で展示作品/場面が大幅に入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR「上野」駅下車、公園口から徒歩10分
東京メトロ千代田線「根津」駅下車、1番出口から徒歩10分
京成「上野」駅下車、正面口から徒歩15分
東京メトロ日比谷線/銀座線「上野」駅下車、7番出口から徒歩15分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
東京駅→JR山手線/京浜東北線→上野駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 東京都現代美術館 リニューア... | トップ | 中世芸能の総本家を野外の薪... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

美術館・展覧会」カテゴリの最新記事